才知と情愛の処刑人

加藤ゆうき

プロローグ

 地雷丸じらいまる が戻ってきた。あとはあの男どもを倒すのみ。 花帆かほは地雷丸にまたがったまま、十人の銃弾をかわした。地雷丸はわたしの代から仕え る血統の馬だ。当然だが、銃弾が地雷丸の皮膚にかすりもしなかった。 花帆の手には茎針雨けいしんう 。この森の中で受け継いだばかりの弓には物理的な矢など不 要、選ばれた者だけが弓を引ける。

 花帆がすべての感情を沈めて弓を引くと、緑色の光が一本の矢を模した。身⾧百八十センチを超えた筋肉質の男に狙いを定めて矢を放つ。すると同時に光の矢から千本の細い矢が拡散した。

 茎針雨の矢は弾丸の軌道すら曲げられる。太い一本は筋肉質の男の額に、残り千本の矢はその男の首筋や舎弟の眼球、関節のリンパを貫いた。

 緑の光に覆われた全員がこと切れると、すべての矢が跡形もなく消えた。

 初めて茎針雨を放ってから戦闘終了までわずか五秒。花帆の両脚のみで地雷丸の上で自らを支えて、地雷丸の俊足で不安定な視界と気流の中で的確に狙いを定めた。

 敵は京都の森で犯罪を繰り返す集団だỵた。迷子の修学旅行生として巻き込まれたはずだったが、然るべき初陣を果たした。

 赤木あかぎ花帆、高校二年生。

 わずか十七歳の少女は返り血一滴も浴びなかった。代わりに⾧いお下げ髪と制服のセーラー服が木の葉まみれになった。

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