第20話 アジトへの侵入

「こいつらこんなところをアジトとしていたのか」


健太は画面上に示される、廃墟を指差して言った。


「GPSの動きが止まったのがここだから恐らくここが拠点だと思うけど、一応、確認した方がいいな」


「そうだな。ドローン達をメンテナンスしてからもう一度ドローンでこの廃墟付近を偵察しよう」


神木達の居場所が特定出来たら、あとはその居場所がどういう構造か調べていかないといけない。


もう、「死に戻り」できない以上、ミスは許されない。


当たり前だけど、一回切りの命だ。


準備を万全な状態にしてから攻め込むべきだ。


これまでみたいな戦い方は出来なくなる。


「ここのパーツが少し緩いな。新しいのに変えよう」


健太は、僕の隣でせっせとドローンの調整を行う。


一方、僕はGPSの点を見続けるだけだ。


「本当に健太君すごいね」


由美さんは、健太がドローンを高速で解体し、また組み立てる様子を眺めていた。


僕は少し悔しく思ったが、健太が凄いことは間違いないので、そんな感情を抱くのは間違っている思った。


「いや、タカの方がすごいよ」


「えっ」


僕は健太が急に僕のことを褒め出したので驚いた。


「だって、タカは俺たちの知らないところで何度も『死に戻り』をして神木と戦ってたんだろ?」


「うん」


「それってめちゃくちゃカッコイイし、強いよな」


「井上君も本当にすごいと私思う」


由美さんも深く首肯した。


「いや、そんなことないよ」


僕は面と向かって褒められるのが苦手なので恥ずかしくなった。


「でも、由美さんも凄かったんだよ。神木の過去のエピソードを聞き出したんだよ。何度目かの『死に戻り』の時に由美さんはすごく上手に神木の情報を聞き出してくれた」


「えっ、そうだったの?」


「うん、僕はその時、由美さんの人の心を動かす力に驚いたよ」


「じゃあ、私も役に立ててたの?」


由美さんは少し嬉しそうだった。


「そうだよ。由美さんのおかげで精神的な面での戦いの重要性も気がついたよ。単純に強さって力だけじゃないんだよね」


「へぇー由美さんもすごいんだなぁ。美人な上に話し上手とは」


健太は深く頷きながらドローンにパーツをはめた。


「やめてよー健太くん。美人じゃないし、話し上手じゃないよ。普通だよ」


いや、由美さん。あなたは健太の言う通り、十分美人だし、話も上手いよ。


僕は照れている由美さんに見惚れていた。


「なんか、お互いに褒め合って面白な」


健太がニコニコしながら言った。


「ほんとそうよね」


由美さんも楽しそうに言った。


こんな時間がずっと続けばいいのに。


僕は心の底から思った。


いつか、神木と戦う日。もしかしたら僕は死ぬかも知れない。


そう思うと、僕は少しだけ目頭が熱くなるのを感じた。


「よし、これで完成だ!」


健太がドローンの最終調整を完了した。


「このドローンでいつでも偵察できる状況だけど日が沈むのを待つか?」


健太の提案について少し考えてから「そうだな。健太のドローンは暗闇でも画像は撮れるのか?」と訊ねた。


「もちろん、暗視カメラを搭載しているから暗いところでもけっこう見えるぞ」


「じゃあ、自分の家で晩御飯を食べて準備してから健太の家に集まるか?あっ、でも由美さんにそんな遅くまで付き合わす訳にはいかないか……」


健太と僕だけならこのプランで何も問題ないが、由美さんは女の子だし、遅い時間は良くないと思った。


きっと家の人も心配するだろう。


「私も参加したい!そのお泊まり!」


由美さんはかなり参加したかったのか、ハッキリと言った。


「でも、家の人とか心配しない?」


僕は由美さんの顔を覗いた。


「大丈夫。私に考えがあるから」と由美さんは言い、スマホを取り出し、誰かに連絡を取り出した。


由美さんは誰かとメッセージを何度かやりとりした後に「アリバイは用意出来たから大丈夫」と言いながらニコリとした。


僕は女の子って本当にやりたいことのためだと、割と簡単に嘘もつくんだなぁと思った。


「よし、じゃあ一旦みんな家に帰って晩御飯を食べてから集合しよう!」


僕は内心、健太がいるものの由美さんと一晩過ごすことにドキドキした。



「どうだ?健太?」


僕は健太の横から画面を睨みながら言った。


「いや、今のところ人の気配はないな」


健太が顎をかきながら言った。


「ちょっと待って!」


由美さんが画面を指差した。


「何か動いた気がする」


「あれは…うん、ネコだな」


健太は画像を拡大し、確認した。


「あはは、ネコか」


由美さんは少し恥ずかしそうに笑った。


「あいつら今日は良い子にお家でねんねしてるのか?」


健太は少し物足りなさそうな顔をした。


「まあ、不在なら思いっきり偵察させてもらおう。車もここに置いてあるからまたここには来るはずだ」


今の僕たちにはとにかく情報が必要だ。


「死に戻り」という選択肢を失った今の僕はより綿密な準備をしてから戦わないと勝算はない。


健太はドローンを廃墟の奥に向かわせた。


一斗缶や土管など廃墟にありそうなものが一通りあり、乱雑に置かれていた。


また、ゴミも多くあり、壊れたように見える家電や修理のできなさそうなバイクなども放置されていた。


さらに、破れたガラスは色々なところに散らばっており、ここで抗争なども過去にあった様子を想像させた。


「あいつらここで集会とかしてるのかな?」


健太はグミを口の中に放り込んだ。


「ヤンキー漫画とかで見たことあるな。それ」


僕もグミを一つ口に入れた。


「うん、私も見たことある。最後は『うぉー』とか言って戦うよね」


由美さんも一粒グミを口にした。


「それそれ、いつも最後は『うぉー』って言って戦うんだよなぁ」と健太は笑いながらドローンを様々な場所に移動させ、様子を伺った。


しかしながら人が今この廃墟にいる様子はなかったが扉が閉まっており入れない部屋があった。


「健太、扉が閉まっているとドローンじゃ入れないな」


「まあ、普通のドローンなら入れないな」


「えっ?普通のドローンならということは健太のドローンなら入れるのか?」


「ちょっと見といてよ」


そう言うと、健太はドローンをドアノブの前まで移動させた。


「ロボットアーム起動!」


ドローンから手のようなアームが出てきて、ドアノブを掴み、回転させた。


カチャッ!


ドアがゆっくり開いた。

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