第18話 作戦を立てよう

「じゃあ、またね」


神木は満足した表情で笑い、軽く手を振った。


「ちょっと、待て!」


僕は腕を抑えながら言った。


「何?僕はもう君に用はないけど」


「もう僕は本当に『死に戻り』出来ないのか?」


「うん、そうだよ。能力を奪う方法は能力者の血を飲んだ後に一回死ぬこと。一瞬、君は僕が首を切った後、すぐに元に戻ったのを見たでしょ?あれで能力は完全に僕に移行したんだよ」


なんとしても神木から能力を取り返さなければ……


他人のことを平気で殺すような奴だ。


こんな奴にこんな強力な能力を所有されたままだと大変なことになってしまうぞ。


仮に母親を救うという目的があったとしても、その為に他人を殺しても良いはずがない。


「神木、君は自分の母親を救うためなら他人に危害を与えたりするか?」


「うん、そうだね。状況にもよるけど僕は目的のためなら手段を選ばないタイプだから場合によっては殺すこともいとわないかな」


やっぱり、こいつはそういう人間だ。


「タカ、怒ってるみたいだね。過去に僕に大切な人を殺されたのかな?」


「ああ、そうだよ」


僕は怒りを隠すことをしなかった。


「へー、でも安心してよ。もうタカ、君には用がないから」


その時、僕の腕の再生が完了した。


「やっぱり、君のその能力はすごいね。もう腕がくっついてるね」


僕は腕が問題なく動くのを確認した。


その瞬間、今までで感じたことのない疲労感が僕を襲った。


僕は立っていられなくなり、倒れ込んだ。


「リバウンド(反動)だね」


「くそっ」


「能力を解除したら、その使用時間や強度に合わせてリバウンド(反動)が来るんだよ。能力使用後いつも『死に戻り』していたら気づかないだろうけど」


そうか、能力発動後、死に戻りしなかったのは今回がはじめてだから能力解除後のリバウンド(反動)がきたのか。


「だから、今後は能力の使用も考えて使わないとダメだよ」


神木は僕を横目でみた後、「じゃあ、またね」と手を振り、歩き出した。


由美さんが僕の側に駆け寄ってきた。


「大丈夫?」


「うん」


「私は二人が何を話しているか分からなかったけど、井上君の大切なものが取られちゃったことはわかったよ」


由美さんはボロボロになった僕をそっと抱きしめてくれた。


「おい!タカ!」


健太が現れた。


「あっ、健太……」


僕は生きている健太を見て、涙が溢れそうになった。


「お前、女の子と……てか、すごい美人だな!」


健太は興奮気味で僕らの方に近づいてきた。


「おい、なんで泣いてるんだよ!」


「いや、健太が元気そうだから」


「俺は死にかけていたのかよ!」


この二人には僕が経験してきた全てを話そう。


必要性はないかも知れないけど、信じてもらえないかもしれないが、僕は話したくなった。


「タカ!一体何があっただよ!」


健太が僕の肩を掴んで揺らしてきた。


「おい、落ち着けよ!健太!」


僕は涙を拭いて健太と由美さんにこれまでのことを話した。


「なるほど、その『死に戻り』の力を神木って奴に奪われたわけだな」


健太は深く首肯した。


「そして、この美少女にハグをされていたわけか……許せん」


健太は腕を組み、さらに深く首肯した。


「うん、許せんぞ!お前はチート能力をまるで漫画の主人公みたいに得た上にこんなにラッキーイベントまで発生している!」


「おい、お前、これまでの悲惨な話を聞いて怒ってただろ?なんでそうなるんだよ!」


「純粋にタカ、お前はカッコよすぎる。そこに少し嫉妬しただけだ!」


健太は昔からやたら素直に自分の感情を出すタイプだ。


しかも、ちゃんと言葉にする。


僕に足らないところで、健太の良いところの一つだ。


「よし、神木って奴の居場所を探して、その『死に戻り』の力を奪還しよう!」


健太は胸を張った。


「うん、私もその力は井上君が持っておいた方がいいと思う。でも、井上君が危険な目に遭うのは嫌だな」


由美さんは俯きながら言った。


「確かに、今回の戦いはタカは『死に戻り』できないわけだから、一回勝負だもんな」


「うん、そうなんだよ。これまでみたいな戦い方が出来なくなる」


僕は頭を掻いた。


いざとなれば戻れば良いと思っていたが、今回は本当に一回限りの命だ。


急に神木と戦うのが怖くなってきた。


「タカ!大丈夫だ!俺がちゃんと作戦を立ててサポートしてやる!」


健太は僕の気分が沈んでいるのを察したのか勇気づけようとした。


「うん、ありがとう」


僕の返事があまりパッとしないと感じたらしく、健太は「大丈夫だ。二人とも一回俺の家に来てくれ」と言い、ニコリと笑った。



「すごい!これはドローン?」


由美さんが健太の部屋の棚に飾られている模型みたいなものを見て言った。


「うん、そうだよ」


健太は自慢げに答えた。


健太はアニメとかも好きだが、ラジコンやドローンなどのメカの類も好きで自分の改造したりしている。


「おい、前に来た時よりもかなり増えてないか?」


「まあな。どんどん欲しいやつが増えてしまってキリがないよな」


健太は頭を掻いた。


そして、健太はドローンから視線を僕らの方に向けた。


「こいつらを使って、街を偵察しようと思う。そして、神木の居場所を突き止めて、ちゃんと作戦を練ってから奇襲作戦を実行する!」


「どうだ!」と言わんばかりの表情で健太は笑った。


「おー」


由美さんが一人で感心している様子だった。


「そんなに上手くいくかな……」と僕が口にすると、健太は「タカ、お前はだいたいネガティブなんだよ。上手くいかせる作戦をこれから立てるんだろ?」と強気で言った。


それからというものの健太のドローンを使って、室内から僕らの住んでいる街の偵察が始まった。


「おいおい、あいつら付き合ってたのかよ」


健太がパソコンに映し出されるドローンの映像を観ながら呟いた。


「おい、プライバシーの侵害だぞ」


僕は健太の隣の別のパソコンの画面を睨みながら注意した。


「仕方ないだろ。見えてしまったものは!」


「でも、いちいち口に出す必要はないだろ」


僕はさらに自分の目の前の画面を注視した。


「あっ、健太君、そこに映ってるのもしかして神木君かも」


由美さんが画面を指差してた。


「あっ、神木だ……」


僕は久しぶりに見た奴の姿に恐怖を感じた。


「よし、追っかけるぞ」


健太はコントローラーを握り直し、神木と距離をとりながらも見失わないようにドローンを操作した。


「ついに、奴のアジトを見つけられるかもな」


健太はまるでハンターのように目を輝かせた。


「うん、慎重に行けよ」


「ああ、わかってる」


僕は唾を飲み込んだ。

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