波よ、返しておくれ

影神

しょっぱい



俺が学生の頃に。


両親は喧嘩をよくした。


場所に構わず、しょっちゅうしていた。



内容は、"お金"だ。



働いても。働いても。


出ていくお金は決まっている。


食費。光熱費。家賃。保険料。税金。



まともに働かなければ。


まともに、働いていても。



低い給料では、どうにもならなかった。



父親は人形が好きだった。


だから、出先でも変わらずに買っていた。


父親「これ。


プレミアじゃん、」


お店の人「掘り出し物ですよ?」


父親「買った!」


お店の人「毎度?」



母親「、、また買って。


お金なんて、無いのに。」


そんな母親の気持ちなんて知らずに。


父親は申し訳なさそうに、ケーキを買った。



店を出るなり。


両親は喧嘩。



いつもの事だが、周りからの視線が恥ずかしい。



今から向かう先は、大人が泊まる。ホテルだった。


ちょうど学校の帰り道になっていて。


そのまま入って行く、学生も少なく無かった。



今では考えられないが。


昔は、そんなもんだった。



顔見知りの奴が同時に入って来て。


先に受け付けを済ます。


その彼女の方は。前に自分が振られた子だった。



互いに気まずかった。



自分達の受け付けが終わると。


部屋の鍵を渡され、部屋へと向かう。



途中。エステティシャンの綺麗な女の人達が居て。


目の前の部屋を見てニヤニヤしていた。


顔を合わせると、指を指しながら、


「さっき、入ったの。」


と、2人で笑って居た。



声は廊下まで響いていたが、俺は扉に耳をくっつけた。


エステティシャンの女の人1「ムリです。


そう言った、サービスはしてないんです。」


綺麗な女の人達は、後から来た客にナンパされていた。



耳の直ぐ側に。彼女は居た。



聞いた事の無い、甘い声が。


激しく。時に弱々しく、響いた。



ジリリリリン、



音の先の廊下の奥には、掃除のおばさんが居た。


エステティシャンの女の人1「またやってるよ。」


エステティシャンの女の人2「気にしないでっ?


早く。お部屋に行ってらっしゃい。」


ジリリリリン、


受け付けの人「大丈夫かい!??」


逃げる様にその場から離れたが。


廊下は客で溢れていた。



エレベーターの近付くの部屋。


そこに入りたかったが。


皆が居たから、入れなかった。



エステティシャンの女の人1「何階??」


「いや。」


気まずくなって、エレベーターに乗った。


その場所には両親は居なかった。


エステティシャンの女の子2「今日は胸が痛くてさぁ。」


「大丈夫ですか?」


エステティシャンの女の子2「旦那がねぇ。


うちの親を殺してさあ。


まあ、とんでもない旦那なんだけど、、」


狭いエレベーターで話すもんだから、


皆は聞き耳を立てていた。



慣れた様に次々と人を降ろすと、再び元居た階に戻った。


エステティシャンの女の人2「ごめんね?


愚痴っちゃって。」


「いえいえ。」


エステティシャンの女の人2「じゃあね?」


「はい。」



昔のお姉さん達はこう。


勘違いしてしまう程。近い様な気がして。


だからか。魅力的で、服装も危機感みたいのが薄くて。


でも、そこには何も無い様な感じを、じわりと。


かもし出すのが上手な方が居るのが、多かった気がする。



次の日には海水浴に来ていた。


丁度水泳教室が開かれていて。


アルバイトで、そこに行った。


バイトは母親が決めたやつだ。


「自分の事は自分でやりなさい。」


それが口癖だった。



担当の先生は、どちらかと言うとタイプだった。


焼けた肌に明るい髪のロングが似合っていた。


担当の先生「はーい。


じゃあ、今日は泳ぎの練習をしますからねぇ?」


生徒達「はーい」


顔見知りもちょくちょく居て、嫌だったが。


気にせず、バイトに集中した。



だが。波が来た。



何の知らせもなく。


唐突に波が来た。



さっきまでの楽しそうな歓声は、


悲鳴や助けを求める声に変わった。


そして。


一瞬のうちに。



波にのまれた。



苦しさや、不安や恐怖。


自分が今何処に居るのか。


あの先生は何処なのか。


そんな考えが過る。



「っ、はぁっ!!」



何とか顔を水面に上げ。


息をする。



水の中は濁っていて、全然見えない。



水面には、いろいろな物があって。


水中にも、沢山あった。



それらが動き、身体にぶつかってくる。



「先生!!」


顔を出しながらも、腕を下へと伸ばす。



がむしゃらに。それを引っ張る。


掴んだはずの手が、ものすごい力で離れる。



それでも諦めずに。誰かの手を、頑張って掴もうとする。


ぶつかる何かで痛みがはしる。



無我夢中で、見えない水中に手を伸ばし。


掴んだものを、上に引き上げる。


「っぷ、はぁっ、、」



それをただ繰り返した。



、、ようやく落ち着いた頃。



自分は、海ではない場所に居た。



足が地面に着いた頃には、第2の波を警戒して。


水辺に近寄るのが禁止された。



「どうして!!



今なら、まだ。間に合うかも知れない!!」


大人達は自分を押さえ付けた。


「もう、死んじゃったよ。


仕方ないよ、、」


知ってる顔は、恰も仕方ないかの様に言った。



当たる場所の無かった俺は、その言葉に酷く噛み付いた。



「仕方ねえ訳、、ねんだよぉお!!!


良いよなあ??てめえは助かったんだからよぉ!!?


まだ、待ってるかもしんねーだろうがぁ!!」


周りには、静かな泣き声が響いた。



やっと解除された水辺には。


瓦礫と。変わり果てた姿の人達が居た。



救急隊が来る訳もなく。


その場で動ける者達だけが。


遺体を、



動かしてあげた。



涙と、鼻水と、吐瀉。


瓦礫と、遺体と、汚水。



時代は起きた事を忘れさせ様としている。



そこから学んだ事を、忘れさせ様とする、、



海は。今日も綺麗だ。


水面をキラキラと、輝かせている。



でも、俺は。決して忘れない。


あの時の不甲斐無さと。


絶望した、、


あの。光景を、



















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波よ、返しておくれ 影神 @kagegami

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