26‡

「いらっしゃ……なんだよ。またか」


 Fの元へ行くと店に入るや愚痴。椅子に腰掛けていたが重たい腰を上げ、「地下にある室内フィールドだったらルール自由で使っていい。ただし、壊したりしたら請求書させてもらう」と一家に鍵を投げ渡す。すると、Bの姿がないのに気づいたのか目を丸くしては続けて口を開く。


「Bが動くのか。なら、正面ではなく”フリーズコール“のみで終わらせろ。折角のいいエサが壊されては此方もたまったもんじゃない。特に血とかな。消すのが面倒なんだよ。大掛かりでやるなら広いフィールドを貸してやるがこんな急に言われてもな。我慢しろと伝えてくれ」


 さっさと近いけ、と手で払われ「アンタはやらないのか。元傭兵なんだろ?」と和也が軽く煽りを入れる。それにFはちょとんとした顔で和也を見ては「おいおい、歳なんだ。若くはねぇよ」と誤魔化す言葉に「俺の命令なら――動けますよね?」とFが歳上のこともあり、珍しい和也の敬語に嫌な顔。


「そこの自警団小僧」


 敢えて話を逸らすようにFはRに話を振る。


「ん? なになにオジさん」


「人殺したことあるか?」


「ふぇ……え、それ今話すこと? うーん。追い込んだことはあるけど手を下したことないかな。ほら、どちらかというとジブンは精神攻撃みたいな感じだから。裏方の裏方みたいな……ね、ね。だよね」


 Rは和也の袖を確認するようにグイグイ引っ張り、辞めろと和也は振り解くや「Bは高確率でスナイパーライフルを持ってくる。多分、実弾アリで脅しで使うと思うが気に食わない依頼だと“捕まえろ””誘拐しろ““誘き寄せろ”と言っても言うことを聞かないことがある。だから、アンタに頼みたい」と静かに和也がFの目を見て言う。


「アイツにスナイパーの扱いを教えたのは”アンタ“なんだろ。なら、少しは扱いが上手いんじゃないのか?」


 店内に客が居ないからと堂々と喋り出す和也にFは頭を抱える。数秒黙り、溜息を漏らすと「いやはや、遅くなりましたー」と空気を読まないBの到着にFはRを指差す。


「なら、自警団小僧を此方に寄越せ。狙いが小僧ならベイト稼ぐだけで立ち回りやすい。おい、B。殺害なしの案件だ。銃はフィールドに持ち込んではいいが囮に使え。銃にヒットしても持ってなかったらノーカンだからな」


 RからBへ話が移り「えっ本気で殺っちゃ駄目なんですか。それはなんとも悲しい。まぁ、ナイフアタックで軽く切り裂いてもいいのなら」とうっとりするBの顔に和也が「フリーズコールのみ。抵抗するなら脱臼か、死なない程度に痛めつけて構わない」と条件を話す理解したのか。


「優しいんだが優しくないんだか分からない人ですね。誰かに指示され動くのは大嫌いなんですが、まぁいいですよ。報酬が上乗せられるのなら」


 背負っていたガンケースを下ろす。すると、ドアが開き、見知らぬ人の気配にBが不自然に黙る。


「すんませーん、あの、話してるところ悪いんですけど……って、あ!! このクソ野郎、ここに嫌がった!! 突然姿消しやがってゆ――」


 突如来店した三人組の男にBはメリケンサックとナイフが合わさった“ナックルナイフ”を両手に握り、首に刺さるか刺さらないかの絶妙な距離で止めた。それを見計らってFが【CLOSE】とドアを締め、看板を出すと「悪いな。ガキンチョら、少し付き合ってくれるか」と逃げないようにドアに凭れ、Fが笑う。


「ふ、ふざけんな。俺らが何したっていうんだよ」


 口籠りながら「出せ」という男の言葉にRは静かに「善者を悪者にして地獄に叩き落したクズ」と口を開く。


「はぁ? それはお前だろ!! 人のタイムライン監視してイタズラなダイレクトメール送って嫌がらせしてんの自業自得じゃねぇか!!」


「ざけんな。表で何もできないくせに裏でほざいて気取ってる糞どもが粋がってんじゃねーよ!!」


 男の言う【自警】とRの【自警】は少し違うのだろう。Rは拳を握り、ギリッと歯を鳴らしては「、殺しの許可下さい。もう限界、今にも切り刻んで内臓ぶちまけたいほど苛つく」と冷静さを失ってるRを和也は「なら、予定外だが殺るか。配信準備するから少し待てるか」と声かけるも夥しい殺気に「分かった。すぐやってやるから待ってろ」とスマホを飛び出す。

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