第58話 俺は通りすがりのダンジョン探索者さ
村を取り囲む盗賊たち。
村の男たちは槍を持ってそれに応戦している。
俺はいてもたってもいられず、戦闘の準備をする。
ひかるんも剣を構える。
村長はそんな俺たちを見て、驚きの表情を浮かべている。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。あなたたち客人に迷惑をかけるわけにはいかない……。それにあの盗賊団はかなり強い。敵に回すと厄介ですぞ。今すぐお逃げなさい……!」
「大丈夫です……! 俺たちに任せてください!」
俺はすぐさま盗賊たちの前に躍り出る。
盗賊たちは俺の姿を見ると、村人ではないと判断したようで、奇異の目を向けてきた。
「なんだお前らは……!? 見たところ村人ではないようだが。けったいな恰好しやがって」
まあ、確かに俺たちの恰好は多少現代風だから、異世界人からしたらけったいにも映るだろうな。
「俺は通りすがりのダンジョン探索者さ。この村は、俺が守る……!」
「ふん、ひょろいオッサンが、武器も持たずになにができるっていうんだ。死ねぇ!」
盗賊がおそいかかってくる。
その瞬間だった。
俺に抱えられていただいふくが、地面にぴょんとおりたつ。
そしてだいふくは、一瞬でフェンリルの姿になって、盗賊の前にたちはだかった。
巨大化しただいふくは、鋭い牙の生えそろった口を大きく開け、盗賊たちを威嚇する。
「な、なんだこいつはあああああああ……!?」
思わず、ひるんだ盗賊たちはそのまましりもちをつく。
「へ、背中ががら空きだぜ!」
そのときだった。
だいふくとは反対側から、ひとりの盗賊が俺に襲い掛かる。
だがその瞬間、俺の頭の上にのっかっていたおもちが、ぴょんと飛び降り――。
そして巨大化。
おもちは盗賊を踏みつぶした。
「きゅいきゅいー」
「な、なんだこのスライムはあああああ……!?」
おもちのおかげで助かった。
俺はおもちをやさしく撫でる。
「なんだこいつらは……! やべえぞ……逃げろ……!」
すると盗賊たちは一目散に逃げようとする。
しかしそれを、ひかるんが逃がさない。
ひかるんといなりは逃げようとする盗賊たちを、ばったばったとなぎ倒す。
「うわぁ……!? 狐の化物……!」
「なんだこの女! つええぞ!」
しかし何人かの盗賊には逃げられてしまった。
倒れている盗賊たちは、さっそく村人たちが縛り上げている。
「少し逃げられてしまいましたね……ハヤテさん」
剣を鞘におさめながら、ひかるんが近づいてくる。
「それも、大丈夫みたいだぞ?」
「え?」
逃げた盗賊たちのもとに、ひとつの大きな影が飛来する。
それは巨大化したよもぎだった。
よもぎは逃げる盗賊たちの前に先回りして、どしんと降り立つ。
いきなり現れた巨大なドラゴンに、盗賊たちはおそれをなしてそのまましゃがみ込んでしまった。
気を失うものや、腰を抜かすもの。
「うぎゃあああああ! なんだこのドラゴン……!?」
すかさず、村人たちが盗賊を捕らえる。
みごと、すべての盗賊を捕らえることができた。
盗賊との戦いで傷を負った村人たちに、すかさず俺が辻ヒール。
これにて一件落着。
俺たちのもとに、村長さんが駆け寄ってくる。
「いやぁ……お見事……。すっかり助けられたみたいですな。ありがとうございます。ハモンドを助けてもらっただけでなく、まさか村まで救われるとは……。これはお礼をしてもしたりないな」
「いえいえ、俺たちは当然のことをしたまでです」
村人たちも、俺たちを取り囲み、歓迎してくれる。
「素晴らしい戦いぷりでした! すごいです! 村を救ってくださり、ありがとうございます!」
コメント欄も、盛り上がりを見せる。
『うおおおおおすげえええ異世界の村救ってる!』
『やべえ、盗賊じゃん。ほんとうにいるんだ。異世界って感じするな』
『ないす! だいふく!』
『さすがは辻おじ!』
だが、これでめでたしめでたしというわけにはいかない。
盗賊たちは当然、これですべてというわけではないからだ。
盗賊団総出で襲ってくるなんて、そんな馬鹿なことはない。
おそらくだが、まだアジトに何人も残っているはずだ。
ここで俺たちが村を去ってしまったら、報復されたときに村人たちが余計に悲惨な目にあうだろう。
だから、俺は捕らえた盗賊に尋ねる。
「おい、お前たちのアジトはどこだ……?」
「ひぃ……!?」
俺はだいふくをけしかけ、目の前で牙をちらつかせながら、盗賊に尋問した。
盗賊たちはすぐにというわけではないが、アジトの場所を教えてくれた。
あとの盗賊の処分は村人たちに任せて、俺たちは盗賊団のアジトへ。
「ひどい……なんてことだ……」
盗賊団のアジトは森の中の洞窟にあった。
盗賊団のアジトについて、遠目から観察していると、彼らが奴隷を捕まえているのがわかった。
奴隷たちは、アジトの外にある檻につかまっている。
そして、その奴隷たちをよく見ると、彼女たちの頭には獣の耳がついている。
俺はひかるんのほうを見た。
「大丈夫か……?」
「はい……大丈夫です……。彼女たちを、助けましょう」
「ああ、もちろんだ」
ここにきて、獣人を見つけるなんてな。
助ければ、ひかるんのことについて、なにか力になってもらえるかもしれない。
俺は戦闘態勢を整えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます