第57話 あるんだ……そういう国……


 あらすじ。こんにゃくを食べると、目の前の異世界人の男の言っていることがわかるようになった。

 ちなみにひかるんにもこんにゃくを分け与える。


「……で、これはいったいなんなんですか……?」


 俺は馬車の男に尋ねる。


「ああ、これは翻訳の魔導アイテムだよ。どうやら君たちは別の言語を話していたみたいだったからね」


 翻訳の魔導アイテムっていうか……おもいきりこんにゃくなんですがそれは……。

 まあ、コメント欄が代わりに突っ込んでくれているので俺は気にしないことにするか。


『どら〇もんじゃんwwwwwwwwww』

『なんだこの異世界wwwwww』

『翻訳こん〇ゃくwwwwww』


 この馬車の男性は、商人かなにかなのだろうか。

 馬車には多くの荷物が載っていた。

 それに、翻訳の魔導アイテムを持ち歩いているくらいだ。

 おそらくだが、いろんな国に出入りしているのだろう。


「これは便利なアイテムでね。亜人や異国の人との会話に役立つ。あなたたちはどこからきたのですか? みたところ、みなれない服装に、きいたこともないような言語だったが……」

「あ……ああ、俺たちは東のほうの日本という国からね」


 適当に誤魔化す。

 だいたいの異世界漫画とかでは、こうやって答えているのをよくみたことがある。


「へぇ。二ホンか。きいたこともない国だな。東の国といえば、ジャポーンが有名だが」

「あるんだ……そういう国……」


 異世界っていうと、大体日本みたいな国があって、そこには侍がいて。

 日本みたいな文化があって、黒髪の人が住んでいたりする。

 異世界あるあるだ。


「それで、あなたはどうしてモンスターに追われていたんですか?」

「ああ、それが……俺は商人なんだがね。村に戻る途中に、猪たちの怒りを買ってしまってね……。それで、あんなことに。いやぁほんとうに危ないところを、ありがとうございます」


 なるほど、やはりこの男は商人だったようだ。

 それにしても、村があるのか。

 やはり、ここは本当に異世界のようだ。


「お礼もしたいですし、ぜひこのまま村まできませんか? 馬車に乗っていけば、すぐそこです」

「ああ、そうだな。そうしよう」


 俺たちは、馬車に乗り込んだ。

 異世界のことはまだよくわからない。

 だから、もっと情報を集めたい。

 この人物についていって村までいけば、この世界のことがある程度わかるだろう。

 村にいって、亜人についての情報を仕入れたい。

 だが、その前にまずはここがどういう世界か、もっと知る必要があるな。


 あ、ちなみに、おもちは俺の頭の上に乗っている。

 だいふくは俺のひざの上。

 いなりはひかるんに抱っこされている。

 よもぎはさすがに目立つので、俺たちの上空を目立たないようについてきている。

 村に入るときは、よもぎは上空でお留守番してもらおう。


 馬車にのって揺られながら、俺は男に質問をする。

 男の名は、ハモンドというらしい。


「ハモンドさん。それで、いまからいく村はどういうところなんです? それに、ここはなんていう国ですか? 俺たち、流れ着いたもので、よくわかってないんですよね……」

「そうなんですか? ここはグラムルージュという国で、今からいくのはレンド村だ。俺の故郷でね、いろいろ、行商をやりながら、こうしてたまに村にもかえっているんだ」

「へぇ。なるほど」


 そんなふうに、馬車に揺られるあいだ、世間話をして情報を集めた。

 村へ着くと、そこは静かな村だった。


「ハヤテさん、今日は俺の家に泊っていってください。料理もふるまいます」

「それはありがたい」


 ということで、俺たちはハモンドの家へ招かれる。

 連れていかれたのは、村のなかでも人一倍デカい家だった。


「ハヤテさん……これって……」

「ああ、……もしかして……」


 俺とひかるんは顔を見合わせる。


「ええ、俺は村長の息子なんです」


 ハモンドは笑顔でそう言った。

 だが、これはラッキーだ。

 村長ともなれば、村のことや、いろんなことを知っているだろう。

 村長さんにいろいろ話をきいてみよう。


「私がこのレンド村の村長。エグレだ。よろしく。この度は息子のハモンドを救ってくれたというじゃないか。ぜひゆっくりしていってくれ」

「ええ、ありがとうございます」

「とはいっても、今は村もおだやかな状況じゃないのだが……。まあ、それでも野宿よりはマシと思ってもらうしかあるまいな」

「それって、どういう?」


 そのときだった。

 村の警報を告げる鐘が、村中に鳴り響く。


「敵襲ー! 敵襲ー!」


 外から男の怒鳴り声がきこえてくる。


「村長、これはなにごとですか……!?」

「親父……! どういうことなんだ……!?」


 どうやらハモンドもなにごとなのかわかっていないようすだ。

 村長は申し訳なさそうに答える。


「ハモンド……お前は、とんでもないときに帰ってきてしまった。それに、客人よ。あなたたちも不幸だ。すまないが、今この村は窮地に立たされている……。自分の身は自分で守ってもらえないだろうか……」

「え……どういうことです……?」


 すると、外からは戦闘の音がきこえてくる。

 俺たちはあわてて外に出る。


 そこには、村の柵を乗り越えようとしている怪しい男たちがいた。


「この村は今、日夜盗賊団の脅威に襲われているのだ……! あなたたちは関係ない。今すぐ逃げるのだ……! おい、ハモンド、馬車に乗せてこのお客人たちを逃がせ! すまない、お客人。お礼をしたいのはやまやまだが、こうなったらもう戦うしかないのだ……! 客人まで守って戦えるほど、この村に戦力は残っていない……!」


 村長さんはそう言うが……。

 だが、今しも盗賊に襲われようとしているこののどかな村を置いて逃げろっていうのか?

 そんなことは、できない。


「ひかるん……!」

「ええ、ハヤテさん……!」


 俺たちは盗賊に向けて、戦いの構えをとった。

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