第42話 深層へ4
ひかるんの母親はひかるんを心底見下した、興味のなさそうな視線を向ける。
あまりにもひかるんに酷いことを言うので、俺は怒りが湧いてきた。
「ちょっと待ってください……! いくらなんでも、娘さんにその言い方はないんじゃないですか? 娘さんは倒れてたんですよ……」
「辻風さん……」
気がついたら、俺はひかるん母の腕をつかんで、そう言っていた。
ひかるん母は困惑した感じで、俺のことをにらみつけた。
「なんですかあなたは。あなたには関係ないでしょう」
「俺はひかるんの……友人です。俺が倒れたひかるんをここまで連れてきて看病しました。俺にも関係あります」
俺がそう言うと、ひかるん母は俺に軽蔑の目を向けてきた。
「あなたねぇ。何歳か知らないけど、いい歳した男性が女子高校に向かってひかるんはおかしいんじゃないの? それに、友達って……健全な関係なのかしらねぇ……?」
「う…………」
たしかに、冷静に考えてみると友達はおかしかったか?
それに、ひかるん呼びもダメだったか……。
だが、他にどういえばいいんだ……。
形成が悪くなった俺をカバーするように、ひかるんが話に入ってきた。
「待って、お母さん。この人は辻風さん。二度も私を助けてくれた人だよ」
「ふん……まあ、どうでもいいけどね。あんたの交友関係なんて」
相変わらずひかるん母はひかるんに対して辛辣な態度を崩さない。
「なんで、そんな酷い態度なんですか……! 母親でしょう……?」
「ああ、あなた……。知らないのね。それに、私はこんな子のこと娘とも思ったことはないわよ」
「え……いくらなんでもそれは……」
ひどすぎる。
ひかるんの目の前で、娘だと思ったことないだなんて、よく言えるなと思う。
それに、知らないってなにを……?
たしかに俺はひかるんの家庭の事情なんかなにも知らない。
だけど、なにがあっても、そんな娘に酷いことを言っていい理由にはならないだろう。
「いいわ。見せてあげる。この子がいかに醜い存在かをね。そうすればあなたも友人でいることに愛想をつかすでしょう」
「あ……ちょっとお母さん……!」
ひかるん母はそう言うと、ひかるんの頭にかぶっている帽子を強引に奪い取った。
大事な帽子を奪われたことで、ひかるんは頭を押さえて泣きだしてしまった。
ひかるんの頭には――耳があった。
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