深層編

第39話 深層へ1


「辻風さん、今日は下層までいってみましょう!」

「えぇ……!? 下層までですか……?」


 コラボ当日、ひかるんが突然そんなことを言い出した。

 俺、まだ中層までしかいったことないけど、大丈夫かなぁ。


「大丈夫ですよ。さりーにゃさんとのコラボ動画みましたけど、今の辻風さんなら!」

「うーん」


 たしかに今の俺は、S級探索者なみに魔力がしあがっている。

 俺の回復魔法と攻撃魔法、それからペットたちの進化があれば、下層攻略も不可能じゃないかもしれない。

 だけど、わざわざそんな危険を冒すような真似しなくてもと思ってしまう。


「でも、危険じゃないですか……? 俺、ひかるんに怪我させるわけには……」


 ひかるんとのコラボでひかるんが怪我でもしたら、また俺がひかるんガチ恋勢に叩かれて炎上しかねない。

 それだけはごめんだ。

 それに、ペットたちだって死んでほしくないし、絶対怪我なんかしてほしくない。


「大丈夫です、辻風さんは私がまもりますから! 辻風さんはヒールをおねがいします!」

「まあ、ひかるんがそこまでいうなら……」


 ということで、俺たちは下層まで攻略することになった。


 配信開始。


「はいどうもーひかるんです。今日は辻ヒールおじさんとのコラボです。下層までいってみようと思います!」


 ひかるんがそう言うと、コメント欄が一気に盛り上がる。


『うおおおおおおお! 下層いくのか!』

『これはドキドキ』

『下層とか大丈夫なのか?』

『危ない気がする……』

『いいぞー!』


 やはり下層はスリリングで盛り上がるらしく、視聴者もどんどん増えている。

 ひかるんの作戦は成功だったかな。

 下層配信となれば、よほどのことじゃないかぎり同時接続人数が期待できるからな。

 

 俺たちは上層をらくらくクリアしていった。

 そして中層も、なんなくクリアだ。

 やはりひかるんは強い。


 俺の出番なんかほとんどなかった。


 そしていよいよ下層までやってきた。

 ここからは、もしもの場合は死を覚悟しないといけない。


 いままでのイレギュラーモンスターは、全部下層のモンスターだった。

 だが、ここからはそのイレギュラーモンスターが当たり前にうようよ闊歩しているのだ。

 気を引き締めていかないと。


 下層に降りてしばらく戦っていたころだ。


「なんとかなりそうだな……」

「そうですね。辻風さんもやっぱり強いです」


 俺たちは順調に下層を攻略していた。


 俺もかなり魔力があがっているおかげで、十分な戦力になっていた。

 俺の攻撃魔法はどれもかなりの威力だ。

 特に火炎が気に入って俺はよく使っていた。


 ペットたちも、進化のおかげで、普通に戦えている。

 おもち、だいふく、いなりの三匹を合わせれば、こちらは5人だ。

 だから相手が強くても、かなり楽に勝てている。


「グオオオオ!!!!」


 ミノタウロスが襲い掛かってくる。

 俺はいなりに命令をする。

 いなりは進化して、巨大な狐の魔物になっていた。

 なかなかにカッコいい。

 尻尾も9本ある。

 これがキュウビの狐とかっていうやつ……?


「きゅうううん!!!!」


 いなりがミノタウロスの攻撃を食い止める。

 そこをよこからだいふくがガブリだ。

 ミノタウロスは真っ二つ。


「ようし、よくやったぞお前たち!」


『すげえええええええ!』

『ペットたちつえええええええ!』

『いなりイケメン』

『おっさんつええええええ!!!!』

『なんだ下層も余裕ジャン』


 下層とはいえ、なんだこのくらいかと拍子抜けするくらいに上手くいっていた。

 だが、その油断が命取りとなる。


 ダンジョンの奥から、ひときわ大きなモンスターが現れた。


「オガアアアア!!!!」


 それは、グレートオーガだった。

 グレートオーガといえば、俺とひかるんが初めてあったときに、ひかるんが戦っていたやつだ。


 ひかるんはあのときの怖い思いがトラウマになっているのか、身体が震えていた。

 そのせいで、逃げ遅れる。


「ひかるん……!?」

「オガアアアアアアアア!!!!」

 

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