第10話 俺、なにかやっちゃったのか……?


「お前今大変なことになってるぞ!」


 友人のユウジはそういいながら、俺にスマホの画面を見せてきた。


「は……?」


 そこには俺が昨日上げたペット動画が映っていた。

 そう、おもちとだいふくにエサをあげるだけの、なんの変哲もないあの動画だ。

 そういえば昨日動画あげたあと、そのまま放置してたな。

 だから気づかなかったのだが、ユウジに見せられた画面には飛んでもない再生数が表示されていた。

 いちじゅうひゃくせん……。


「って、一日しか経ってないのに100万再生……!?」

「な、やべえだろ」


 今朝の通知は、この動画についたコメントの通知だったのか……?

 コメント数はもうすでに5000件を超えている。

 だがいったいなんでこんなことに……?

 まあたしかにモンスターをペットにしている動画は珍しいだろうが、さすがになんの後ろ盾もない俺が、一夜にしてここまでバズってるとなると違和感しかない。


「ど、どうなってんだこれ……? 俺、なにかやっちゃったのか……?」

「バーカ。なにかやっちゃったのかじゃねえんだよ。お前、飛んでもない人と写真とっただろう?」

「写真……?」


 写真なんかとったかな?

 記憶にない。

 とんでもない人って?


「さりーにゃだよ。さりーにゃ。さりーにゃが、SNSにお前んとこのペットの画像を上げてたんだよ。そのおかげで、みんなさりーにゃのファンがお前の動画一斉に押し寄せたんだよ」

「はぁ? さりーにゃ? 誰だそりゃ」


 ユウジは、次はさりーにゃとやらのSNSをスマホの画面に表示する。

 そこには、さりーにゃが昨日したという投稿があった。

 リツイートは2万を超えている。

 俺はその写真に見覚えがあった。

 昨日、河原で散歩中に出会った女性。

 天音サリナさんと、その愛犬のマロンが、いっしょに映っていた。


「あぇ……!? サリナさん!? さりーにゃって、サリナさんのことだったのか……!?」

「お、なんだ? 本名も知ってんのか!? お前、さりーにゃといったいどういう関係なんだよ!」

「どういう関係って、昨日偶然知り合っただけだよ……」


 昨日偶然知りあったあのサリナさんという女性、彼女はどうやら、有名ダンチューバーのさりーにゃさんだったらしい。

 そういえば、サリナさん、ダンチューバーやってるとかって言ってたよな。

 だけれど、まさかここまでの大物ダンチューバーだとは思わないじゃないか。

 俺は正直、これまでダンチューバーとか全然興味なくて、その辺は疎かったんだよな。

 まさかチャンネル登録者100万人越えの、超有名人だったなんて。

 しかも、近所に住んでるもんなんだな、有名人。


「あれ、でもおかしくないか? いくらサリナさん……さりーにゃが有名でも、SNSに画像あげたくらいで、俺の動画までそんなにバズるか……?」


 いくらさりーにゃに人気があっても、さすがに一夜にしてバズりすぎだと思うのだ。

 

「お前、自覚ないのか? 他にもいろいろやらかしてんぞ?」

「え……?」

「ひかるんだよ! ひかるん! お前ひかるん助けただろ!」

「はぁ……? ひかるん? 誰だそれ」


 またしても知らない人の名前だ。

 

「大物ダンチューバーのひかるんだよ! お前、土曜日にダンジョンでひかるんをイレギュラーから救っただろ! お前はひかるんの救世主なんだよ!」

「え……? まあ土曜日にダンジョンで女性をヒールしたけど……って、なんでお前がそれを知ってるんだ?」


 まさかコイツ、俺のストーカーか?

 でもなぁ。あの程度の辻ヒール、いつもしていることだからな。

 困っている人を見過ごせないのが、俺のいつもの性だ。


「あん? まさかお前、それも知らねえの?」

「だから、なんのことだよ」

「お前が助けたその女性はなぁ、ひかるんって言って、日本を代表するアイドルダンチューバーなんだよ!」

「はぁ、そうなのか?」


 なんか、俺ってやたらと有名人と出くわしてるんだな……。

 でも、それがどうしたっていうんだろうか。


「あのときひかるんは、配信中だったんだ。それで、配信にお前がひかるんを助けた一部始終が映ってたんだよ! だから、お前は今ひかるんのファンたちから英雄だって救世主だって、崇められてんの!」

「はぁ……!? なんだそれ……!? あれ配信中だったの……!?」


 ってことは、俺の顔が全世界に中継されてたってことか……?

 マジかよ……インターネットこうぇええ。

 身バレすんじゃんか。

 俺なんかなんの変哲もないただのおっさんなのに。


「あれ、でもおかしいだろ。なんで、そのひかるんを助けたおっさん=俺だってバレてんだ? なんで俺の動画にたどり着いてんだよ」

「それがな、お前のあげた動画。スライムのぷるぷるボディに反射して、お前の顔が映ってただんよ」

「はぁ……!? マジかよ!? んなバカな……!」


 スライムってそんなにぷるぷるしてたのか……!?

 うかつだった……。

 俺は全世界に自分の顔晒してたのか?

 身バレまったなしじゃないか……。

 インターネットリテラシー……。


「だからよう、それに気づいたさりーにゃのファンとひかるんのファンが、ひかるんを助けたオッサンが、この動画の主だって気づいたわけ。今話題になってるひかるんの救世主が、動画あげてたらそりゃあみんな見に来るだろ? しかも、それに加えてさりーにゃが宣伝してたんだ。そりゃあ、一夜でここまでのバズにもなるさ」

「マジかぁ……そんなことってあるんだな……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る