第9話 無邪気に今日もきゅいきゅい言ってやがる。


 月曜日の朝。

 はぁ、また仕事がはじまってしまう。

 地獄の一週間がはじまるぞ……。

 この休日は、かなり充実していた。

 おもちとだいふくのおかげで、かなり精神的に癒されたしな。

 それに、サリナさんという美人さんとも知り合えた。

 正直、久々に最高の休日を過ごせたと思うよ。


 それだけに、この月曜日が忌々しい。

 ああ忌々しい、ああ忌々しい。

 起きたくないなー。

 学校行きたくないなー。

 じゃなかった。

 仕事行きたくないなー。

 布団の中で、俺はそればかりを考える。

 起きたくない。

 一生ここでこのままこうしていたい。

 布団の中でしばらくだらだらしていると。


 スマホに邪魔された。

 スマホがさっきからぶるぶると震えている。

 そういえば、マナーモードにしたままだった。

 昨日電車に乗ったからな。

 アラームか?

 あれ、でもアラームならマナーモードでも音鳴るよな?

 まあなんでもいい。

 とにかくさっきからスマホのぶるぶるがうるさい。

 俺はまだ寝ていたいんだよー。


 ――ぶるぶる。

 ぶるぶるぶる。

 ぐらんぶるーふぁんたじー。


「あああああああああああああ!!!! うるせえええええええええええええええええ!!!!」


 俺はイライラに任せて、スマホを放り投げた。


 ――びゅーん!!!!


 それと同時に、勢い任せに起き上がる。

 俺の投げたスマホは宙に舞い――。


 そして、おもちの上に落ちた。

 そしてそのまま、おもちの身体の中に吸い込まれていった。

 スマホが消えた。


「あああああああああああああ!!!!?」

「きゅい……?」


 やっちまったああああああああああ。

 スマホ投げたらスライムに吸い込まれてしまったよおおおおお!!!!

 え、マジか。こんなことってある!?


「おいおもち! 今すぐさっきの吐き出せええええええ!!!!」

「きゅいぃ?」


 おもちはなんのことかわかっていないようすだ。

 無邪気に今日もきゅいきゅい言ってやがる。

 まあ。仕方がないか……。

 おもちは飛んできたものをなにも考えずに受け取っただけなんだもんな……。


「はぁ……おもちに怒ってもしかたないもんな……。スマホ投げた俺が悪い……」

「きゅいきゅい」

「がる……?」


 二匹は落ち込む俺に、心配そうな顔を向けてくる。


「はは、大丈夫だよ。なんでもないよ。まあ、スマホはまた買えばいいから……。今日の帰りにでも買って帰ろう」


 はぁ、すっかり目が覚めてしまった。

 起きたくないけど、仕事にいかなきゃだ。

 俺はふと、今何時だろうと壁にかけられた時計をみる。

 すると、まだ起きるにははやい時間だった。

 いつもは7時に起きているのに、まだ6時半だ。


「あれ……? じゃあさっきのぶるぶるはなんだったんだ? アラームじゃないよな……? まあ、いいか」


 まだ少し早いが、俺は仕事にいく準備を始めた。

 おもちとだいふくには、留守番をしてもらわないといけない。

 二匹だけで留守番できるのかな……?

 ちょっと心配である。

 でもまあ、仕事に連れていくわけにもいかんしなぁ……。

 それに、ペットホテルとかに預けるわけにもいかんだろう。

 モンスターなんか預かってくれるペットホテルなんかないだろうし……。


「二人とも、留守番できるか?」

「きゅい!」「がう!」

「よし、いい返事だ」


 返事はいいけど、ほんとうにわかっているのかは謎だ。

 まあ。餌とか水を置いておけば、こいつら賢いからなんとかなるだろう。

 二匹が留守番する準備とか、留守番のルールとかを教えていたら、あっというまに時間がたった。

 そろそろ仕事にいかなきゃだ。

 俺は二匹を置いて家を出た。



 ◇



 なーんか、チラチラ見られている気がするんだよなぁ……。

 山手線に乗り込む俺。

 なんだか電車の中でも、視線を感じる。

 チラチラ見てただろ(因縁)。

 嘘つけ絶対見てたゾ。

 

 俺の顔になにかついているのかな。

 いや、まあ気にしないでおくか。

 とりあえず、俺は視線を気にしないことにした。

 

 電車を降りてもずっと視線を感じる。

 俺はいそいそと職場に乗り込んだ。


 職場につくと、真っ先に俺に声をかけてきた人物がいた。

 友人で同僚の、上大岡かみおおおかユウジだ。

 ユウジは俺の背中をばんと叩き、肩を組んでくる。

 スキンシップがいつにもまして過剰だ。


「時の人のおでましだ!」

「え……?」

「おいハヤテ! お前すげえよな……!」

「は……? いや、なにが……?」


 急にそんなことを言われても、なんのことかさっぱりだ。


「は……? はこっちのセリフだ。まさかお前、知らないのか……?」

「いやだから、なにが……?」

「はぁ……マジかよ。スマホは? インターネット見てねえの……?」

「あぁ……スマホは今朝紛失した……」


 スライムによって。

 

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