第61話 こんな茶番は引っ掻き回してやるよー

「…………!?」

「っ! ソ、ソウマ……!?」

 

 僕の意気を受けてサクラさんもシミラ卿も動きが止まり、唖然とした様子でこちらを見る。

 威圧の対象となっているのは二人だけだし、シアンさんに害が及ばないようにこちらで制御してるから彼女はかわいくキョトンとしてるけど、その辺は割とどうでもいいギルド長と隣で控えてる秘書さんはギョッと目を剥いているねー。

 

 サクラさんとシアンさん以外の3人は僕のことを少なからず知っているはずなんだけど、やはり3年も時間が経つといろいろ、忘れちゃうところはあるのかもしれない。

 サクラさんにしたところで、いきなりシミラ卿と自分のタッグを一人で相手するよーとか言い出した僕には、懐疑的になってもおかしくはないしねー。

 

 こうなるともう、多少乱暴だけど身をもって僕の実力の一端を知ってもらう、あるいは思い出してもらうのがいいんだろう。言葉じゃ納得してもらえないだろうし。

 そう思ってのガチな威圧は、予想以上に効果を発揮して二人のみならずギルド長達までも戦慄させたみたいだ。

 

 彼女らをまとめて牽制したまま、僕は告げる。

 

「サクラさんはともかくシミラ卿、僕を誰だと思ってるのー? 調査戦隊に入った成り行きも、入ってからの働きも知らないとは言わせないよー」

 

 調査戦隊に入る際リーダーと副リーダー、および幹部格をまとめて一度は完膚なきまでに叩きのめした。まあその後のリベンジ戦で完全に対策取られて逆に叩きのめされたけどー。

 そして調査戦隊所属中は迷宮攻略法をいくつも考案し、今やレジェンダリーセブンとか言われてる人達にも手ずから教えた。まあ彼らからも同じくらいいろんなことを教わったから、正味トントンだけどー。

 

「大迷宮深層調査戦隊の中でも、単純な強さだけなら誰にも引けを取らなかった……今もそうだよシミラ卿。サクラさんと二人がかりで来ようが、僕相手に簡単に押し切れるとか夢にも思わないほうがいいねー」

「…………!!」

 

 傲慢なまでの絶対的な自信。他のことは譲れてもこれだけは譲れない。

 心配されるほど弱くはない。僕は強いよー?

 ニコリと笑うと視線に晒された、二人の美女は息を呑み汗を一筋、垂らしていた。

 

「こ、れは……! ワカバ姫から聞いていたでござるが、なるほど。相手にとって不足なしというわけでござるか……!!」

「……不覚にも、記憶を摩耗させてしまっていたか。そうだったな、ソウマ。調査戦隊にあってお前は、中核メンバーの一人として迷宮最下層にまで到達したのだったな」

「久しぶりだが悍ましい威圧だな、直接の対象でもないのに殺されるかと思ったよ……グンダリ、やるなら事前に断りを入れてからやりなさい。老人の心臓を今ここで止めるつもりかね」

「止めたところで死にそうもないくせに……でもごめんなさいギルド長、時間もないし手っ取り早く話を通そうと思ってー」

 

 冷汗を拭う素振りをしているギルド長に謝るけれど、実のところこのおじいちゃんもこれでSランクだからねー。

 現場こそ引退しているから迷宮攻略法の習得もしてないけれど、長らく冒険者やってきたから胆力は折り紙付きだし、僕の威圧だってなんとも思ってないはずだ。

 そのくせ虐められたか弱いおじーちゃんのフリをして来るんだから、食えないよねー。

 

 ま、とにかく話はこれで決まりだ。騎士団は予定通り冒険者ギルドと組んでオーランドくんとマーテルさんを追いかけ、先行部隊と合流したあたりで僕こと"杭打ち"の奇襲に遭う。

 そして現状最高戦力であるシミラ卿とサクラさんの二人がかりで僕と戦う中で僕優勢、くらいの形で終わってマーテルさんへの手出し無用って宣言をするわけだ。

 

 これなら冒険者ギルドが全面的に国とやり合うこともないし、迷宮都市に騒乱が巻き起こる可能性も低くなるだろうね。

 後から"乱入して邪魔してきたとはいえ杭打ちも同胞だから……"みたいな言い訳をして国の協力には今後、応じない構えを示せばもう完璧だよー。

 

 ビックリするくらい一から十まで茶番だけれど、そもそも超古代文明の生き残りを捕らえて実験動物にする時点で茶番未満の出来の悪いシナリオなんだ、僕がわやくちゃにしてやったほうが面白い見世物になるでしょー。

 早速僕は立ち上がり、みんなを見回して言った。

 

「都合上、僕が先行してないと話にならないので先に失礼しますよー。先走った連中が万一オーランドくん達に追いつこうとしていた場合、彼らをある程度黙らせるつもりではいますからそのおつもりでー」

「ああ、そこは構わない。ただ殺しはするなよ、さすがにそこまで至ってしまうと国もお前を腫れ物扱いする程度に収めてはおけないはずだ」

「そこはもちろん。自慢じゃないけど僕、手加減は得意なんですよー」

 

 モンスターと違って人間は脆いからねー。

 そうとだけつぶやいて僕は、ギルドの外へと出た。

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