第62話 空だって飛んじゃうよー!

 ギルド施設の外に出て、僕は一息に大地を蹴って飛んだ。

 そう、飛んだ。跳んだでも翔んだでもなく飛んだんだ。強化した肉体による第一歩で高く舞い上がり、重力制御法で僕が進む方向、進みたい道筋へと一直線へ向かう。

 傍から見れば空を飛んでいるみたいに見えるだろう。だから言うのさ、飛んだってねー。

 

 この技術は迷宮攻略法を修めようとする者達にとっては今や、極点にあるとされる技法の一つだ。身体強化も重力制御もあまりに習得難度が高すぎて、未だに世界各国にそれぞれ片手くらいしか体得済みの冒険者はいないらしい。

 ましてやその2つを掛け合せたこの飛翔法なんて、調査戦隊が最高戦力として誇ったレジェンダリーセブンの中でも1人しか使えなかった代物だ。

 

「…………」

 

 あっという間に砦の壁を高々越えて町の外へ。なんら遮るもののない空を快適に行く感覚は爽快かつ迅速だ。

 当然馬より早いから、余裕で先行した騎士達に追いつけるだろう。場合によってはオーランドくん達とも出くわすかもだけど、そうなったらより好都合だ。マーテルさんを逃がすことに協力を表明できるからねー。

 

「……………………」

 

 猛スピードで北へ向かう中、そう言えばシミラ卿なんかはかつて、やたらと羨ましがってたなあと昔を思い出す。

 あの頃は迷宮攻略法の初歩である熱耐性さえ身につけるのがやっとって感じだったけど、今はどうなんだろう。

 

 ていうか、これからサクラさんともどもまとめて相手しないといけないけれど、いまいち両方とも実力のほどは分かってないなーって今頃気づいちゃったよー。

 まあ、戦う相手の実力なんて分からなくて当然なんだし別に構う話でもないかなー。

 

 勝てそうなら勝てばいい、負けそうならそれでもどうにか相討ちに持ち込めればいい。

 今回の敗北条件は僕がなすすべもなくあの二人に敗れてしまって、騎士団や国に対してマーテルさんに手を出すことのリスクを示せないことだけだ。つまり負けなきゃ勝ちなんだから安いよねー。

 

「…………簡単に負けてやるつもりはないよー」

 

 さっきは啖呵を切ったものの、実際サクラさんもシミラ卿もSランク相当の十二分な化け物だ。迷宮攻略法の習熟状況に依らず、培ってきた技術と経験はまかり間違えばレジェンダリーセブンとか言われてるあの人達にだって負けない部分はあるだろう。

 元調査戦隊のシミラ卿に、レジェンダリーセブンの一人と友人なサクラさん。どれほどのものかなー、場合によっては殺すつもりでいかないとまともな勝負にさえ持ち込めないかもねと、ちょっと不安気味になりそう。

 

 いやでも、あんな大言壮語吐いといて大したことありませんよ僕ーってのはダサすぎる。

 調査戦隊を抜けてからも迷宮最下層付近でずーっと金策してきたし、実力だってその頃よりも上がってるとは思うけど……対人経験についてはほとんど経験を積んできてないからね。そこを攻められるとちょっと辛いかも。

 

「……でも、もしこれでカッコよーくみんなの前であの二人を倒せればー。きゅふ、くふふふー!」

 

 逆にあの二人が組んでなお、僕がスマートにかっこよくクールに首尾よく倒せたとしたら。そこまで考えて僕の顔が緩んだ。

 めちゃくちゃカッコいいんじゃないかな、謎の冒険者"杭打ち"、Sランク冒険者とエウリデ連合王国騎士団長のタッグさえ軽々打ち破る、とかさー! えへへ、モテモテ間違いなしだよこれはー!!

 

 いまいち僕の実力を疑ってっぽかったサクラさんや、そもそも上位冒険者の実力について大した知見のなさそうなシアンさん。そして今の僕の実力を測りかねているシミラ卿。

 この3人だって僕がマジに強くてカッコいいんだぞーって分からせられれば、きっとメロメロになるよねー! 大体の場合、冒険者は強いほど人気が出るものだしね! えへ、えへへへ!

 

「……よーし、頑張るぞー!」

 

 マーテルさんを助けるのがもちろん第一の理由だけれど、それはそれとして僕としてはカッコいいところをみんなに見せてすげー! かっこいいすきー! って言われたい!

 だからそのためにも気合を入れつつ飛んでいると、遥か見下ろす地上にて、馬に乗って駆け抜ける騎士の部隊を発見した。さらにその進行方向の先に一頭、必死にかける馬に乗る二人組も。

  

 町を出て大体10分ほどくらいかなぁ、結構遠くまで来たけど、どうにか捕捉できたみたいだ。

 タイミング的にギリギリだったみたいだねー。運がいいのは何よりだよ、オーランドくん。

 

「……かるーく、肩慣らしするかなー」

 

 騎士団員のみなさん方には悪いけど、これから実力者二人を相手取るからね、ウォーミングアップはしておきたい。

 久々の対人戦、少しでも勘を取り戻しておきたいところもあるからねー。そう思って僕は急降下した。

 オーランドくん達が駆る馬の進行方向、まるで流れ星のように猛烈な勢いで地上に向かい、杭打ちくんを構えて地面に叩きつけたのだ!

 

「────!!」

「何っ!?」

「きゃあっ!?」

「なんだあっ!?」

 

 スドォォォォォォンッ!! と、大地を大きく抉り揺らす衝撃。僕にとってはいつものことだけど、オーランドくんやマーテルさん、騎士団の人達にはまるで未知の事態だろうね。

 馬を止め、困惑しきりに土煙に埋もれる僕を見る彼ら。言っちゃ悪いけど騎士団の連中はこの時点でダメダメだ。

 

 様子をうかがう前にまずは剣を抜いて構えなきゃ。何が起きてもおかしくないなら、空からいきなり敵が降ってくるのもおかしくないのにー。

 オーランドくん達もこの隙に逃げることを考えるのがベストなんだけど、なんちゃってAランクのぺーぺーくんだからね。助けた女の子を逃がすって選択肢を取れただけ、及第点なんじゃないかなー?

 

 やがて土煙が晴れていき、彼らは僕の姿をしっかり捉える。

 目を見開き驚く一同に、僕はマントと帽子に隠された奥で一人、ニヤリと笑った。

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