第55話 急な呼び出しだよー?

 新世界旅団構想についての懸念とその対応から、割と真面目にエウリデ連合王国が冒険者界隈から嫌われてるってのは浮き彫りになってきたわけだけど……

 そうした事実を踏まえて僕は、改めてリリーさんに自分の意志を伝えた。正直迷っちゃってたところもあるんだけど、相談して話し合う中で自然と考えがまとまっていった感じだねー。

 

「……うん、決めた。シアンさんの作るパーティー、いや組織"新世界旅団"に、僕も入団しようと思う」

「ソウマくんがそれを望み、決めたのなら私が反対する理由はないわね。未知数の要素は多いけど、だからこそやる甲斐があるって考えるのが冒険者だものね」

「そうだねー。なんだかんだ僕もすっかり、冒険者気質だよー」

 

 二人、顔を見合わせて笑い合う。

 調査戦隊解散から3年、もう二度と誰かとパーティーやそれに類する組織に属することはないだろうなって思っていたけど、人生って分からないもんだね。

 ましてやそのきっかけとなった人は昔、僕がこの手で助けたことのある女の子だって言うんだから、人生万事塞翁が馬、あるいは情けは人の為ならずってところかな。面白いね、世の中ってさ!

 

「ヒノモト出身のSランク、ジンダイさんに知る人ぞ知る無銘の伝説"杭打ち"……とんでもない2枚看板ね。正直エーデルライトさんがある程度見込み外れでも、あなた達だけで余裕でエウリデ随一のパーティーになるでしょうね」

「サクラさんはともかく僕のことは買い被りすぎだよ、リリーさん。まだまだDランク、世間的には未成年のペーペーなんだから」

「公的書類上の扱いと実際の扱いと、あと本人の認識とでこうまで齟齬のある冒険者も珍しいわね、本当に……あら?」

「うん?」

 

 僕の言葉にリリーさんが苦笑いしていると、不意に面談室のドアがノックされた。なんだろ、誰だー?

 リリーさんが促すとドアが開いて、事務員の男の人が入ってきた。その顔はどこか緊張を帯び、汗も一筋垂らしている。

 その人は僕とリリーさんを見るなり、真剣のそのものの様子で言う。

 

「面談中のところ失礼します、杭打ち様……ギルド長がお呼びです。先日弊ギルドにて起きた騎士団との騒ぎに進展が見られたと」

「ギルド長……?」

「はい。加えてSランク冒険者サクラ・ジンダイ様、並びに騎士団長シミラ・サクレード・ワルンフォルース様もお越しになっています」

「はあ!? な、何それ錚々たる面子じゃない!」

 

 ギルド長とシミラ卿だけならまだしも、サクラさん? こないだの騒ぎに彼女は何一つ関与してなかったはずだけど、なんで?

 リリーさんが叫んだとおり、中々の豪華メンバーというか……ギルド長自身もSランク冒険者だし、そんなところにのこのこ行かなきゃいけない僕だけが場違いじゃないかなこれー。

 

「…………何かあった?」

「ハ……いえ、詳しくはその、ギルド長のほうから説明いたします。ただ、杭打ち様のお力を、助力を必要としていることだけはたしかです」

「……………………」

 

 うわー! なんか嫌な予感しかしないー!

 ものすごく厄介ごとの香りがするよー。しかもこれ、ギルド長が絡んでる時点で逃げるに逃げられないよー。詰みだよー!

 

 ギルド長とは昔から持ちつ持たれつな関係なんだけど、それはそれとしてうまいこと冒険者を手玉に取る百戦錬磨の老爺さんなんだよね。

 だから僕なんて戦闘力ばかりで学も教養もないからカモの中のカモ、毎度うまいこと煽てられて持ち上げられて、気がついたら火中の栗を拾う羽目になってるのがこれまで結構あったりするんだ。

 そんなギルド長が直々に僕を名指ししている……うわー!

 

「……わかりました。伺います。ギルド長室で?」

「はい! ありがとうございます!」

「声だけでも本気で嫌そう……大変ねー杭打ちさんも」

「……………………」

 

 そう言うんなら付き添いしてよー! と視線で語るものの、リリーさんはフッ、と笑ってそのままそっぽを向く。知らんぷりは良くないぞー!

 言っても仕方なし、立ち上がる。スタッフの男性に付き添われつつも部屋を出て僕は、施設の二階、最奥にあるギルド長室を訪ねて歩いた。

 

 こないだの騒ぎでの話なんて、精々騎士団からギルドへの謝罪と賠償くらいしか思いつかないんだけどなー。もしかしたら僕への詫び料も払ってくれるとか? エウリデだしないか、そんなこと。

 あるとしたらむしろ逆で、スラム出身の冒険者風情が何してくれてんだって喧嘩を売りに来たってところだろうか?

 

 もしそうだとしたらシミラ卿がそんなことノリノリでやるわけないし、こないだ貴族のボンボンを殴ったペナルティで来てたりとかして。

 ご愁傷さまだねー。こないだのベテランさんじゃないけどもう、騎士団長止めて冒険者にでも転職してもいいと思うよ、そんな扱いされるくらいなら。

 

 あれこれ予想を立てつつギルド長室のドアに到着。えーっとノックは何回だっけ3回? 4回? まあいいやテキトーで、コンコンコンコンコーン!

 

『5回? ……まあ杭打ちのやることか。入りなさい』

「……………………」

 

 僕のやることだから何? なんなの? ちょっと気になるんですけど!

 絶妙にぼかした物言いをしながら入室を促す、男の人の声に従って僕はドアを開けた。

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