第54話 国にとってのトラウマだよー

 シアンさんの新世界旅団に、僕より前に賛同を示していたのが実のところ、サクラさんだったりする。

 僕への説明の時にもタッグを組んで来てたしね。後で聞いてみたらどうも彼女自身、部室に来る前のタイミングでシアンさんから説明されたそうなんだけど……なんと即断即決で新世界旅団への参加を表明したのだ。

 

『くだらないしがらみを振り切って未知なる世界を切り拓く! これは冒険者の本懐でござろう? 今のところ小娘の戯言に過ぎぬでござるが、こんな大それた夢を掲げること自体に価値があるでござるし、せっかくなんで乗ってみようと思うでござるよー』

『自覚はありますが直球で小娘の戯言と言われると少し、ショックですね……』

『事実でござる。今は悔しくとも受け止めるでござるよー』

 

 ──とまあ、そんなやり取りを二人でしていたねー。

 これにより現状、新世界旅団が本格的に組織された時に確定で入団してるのは団長のシアンさんとサクラさんの二人になる。つまり事実上、暫定副団長はサクラさんになるってことになるね。

 言う事ばかりは壮大な、野心溢れる新米リーダーとそれを支えるベテラン副リーダー。なんていうか物語の導入部みたいで、結構ワクワクしたところはあるよー。

 

「そんなわけなので僕が入る入らないにしろ、確定でサクラさんはシアンさんを鍛えるつもりだと思うんだよねー」

「ってことはどうあっても、新世界旅団のパーティーとしての存在感は確立されていきそうね……将来性もありそうってのは大きいわよ、ソウマくん」

「ねー」

 

 入ったは良いものの実力不足、あるいは求心力不足で芽が出ないまま終わる……なんてことはこの際、可能性が低いと見ていいだろう。

 僕抜きにしてもカリスマのシアンさんと武力のサクラさんがツートップなんだから、その時点である程度上を目指せるのは間違いない。なんならバディでも大成しそうなくらいだ、シアンさんの戦闘力の伸びにもよるけど。

 

 そんな旅団に僕が求められてるところは、戦闘力とか性格面もあるけど、やはり一番大きいのは"国と揉めて追放された元調査戦隊メンバー"という来歴がゆえなんだろうね。

 おそらくリリーさんにとっての懸念の一つだろうそれを、僕はつらつら語っていく。

 

「3年前の調査戦隊解散の時、エウリデ連合王国は僕を追放してなかったことにした。スラム出身の冒険者が調査戦隊に所属しているという事実を、国として絶対に認めることができなかったんだね」

「何度聞いても腹立たしい話だけど、急にどうしたの?」

「僕が旅団に必要とされている理由だよー。つまるところエウリデ内でポスト調査戦隊を掲げたいシアンさんは、そうすると絶対に擦り寄ってくるだろう国や貴族連中に対して僕っていうカードを持ちたいんだと思うんだよねー」

 

 エウリデは調査戦隊解散を引き起こしたことで各国からのバッシングを受け、冒険者達からも総スカンを食らう羽目になった。

 そのため昨今、世界各国で行われているポスト調査戦隊パーティーの擁立に関して一切手立てを打てないでいるらしいんだよね。

 

 エウリデ内の冒険者達からしたら、国内でポスト調査戦隊パーティーを組んだら国に横槍を入れられかねないからとてもじゃないけどできない。またパーティーを崩壊させられるかもしれないわけだしね。

 仮に組みたいのならば国の干渉に対して、ある程度撥ねつけられるだけの手札がないといけない。

 

 そう、たとえば……スラム出身の冒険者で、しかもかつて脅迫してまで追放した挙げ句、最悪の結果を誘発させてしまったような輩とか、ね。

 

「国の横槍、あるいは嫌がらせってのはリリーさんにとっても懸念だったと思うけど、その辺は僕が入団すればある程度は避けられる」

「……まあ、たしかにそこが一番大きな心配事だったわ。でもどうしてかしら?」

「昔は借金完済分のお金って餌もあったけど、今はもうそれもないからねー。かと言ってたとえば孤児院に手を出そうとでもすればそれこそ本末転倒だ、新世界旅団はどんな手を使ってもエウリデを排除しにかかるだろうし」

 

 結局のところ僕があの時、追放命令に応じたのは孤児院の借金を完済できるだけの金が引き換えだったのと、拒んだら国によって孤児院に危害が加えられてしまうからだ。

 危害のほうは僕一人でもどうにかできたのかもしれないけど、あくまで可能性の話だ。一人でも護るとか息巻いて結局孤児院に被害が出たりしたら話にならない。

 それに借金の完済も割と急務だったからねー。そうした事情もあって僕は、調査戦隊を抜けたわけだ。

 

 でも今回、それらの要素は一切関係ない。

 孤児院の借金はもうないし、国とやり合うかもしれない件についても、僕を国への手札として囲う以上は旅団全体の問題として扱われるだろうし。つまりは仲間達とともに対策を練ることだってできるってわけだねー。

 

 そもそも、今さら国が僕に関わりたいとも思えないのでスルーしてくる可能性さえあるんだし。

 とにかくそんな感じで、3年前に比べて状況は明らかに僕有利なのだ。

 

 付け加えるようにリリーさんも、鼻息を荒くして言う。

 

「大体そんな真似したら、今度こそ冒険者達が黙ってないわよ……! 3年前の真相、あなたが孤児院を盾に取られて脅迫を受けた話はもう、公然の秘密同然で冒険者中に広まってるんだから」

「教授がずいぶん細工したみたいだねー。あれはあの人も怒ってたからねー」

「冒険者"杭打ち"の踏み躙られた尊厳と誇り、未来と栄光。ベテランや話を聞いた新米冒険者は次、同じことがあれば武力蜂起さえ厭わないでしょうね。だってあなたが受けた仕打ちは、もしかしたら彼らにだって降りかかるかもしれないことなのだもの」

 

 出自を理由に、脅迫してまでパーティーから追放する──僕に起きたことはつまるところそういうことなので、大概の冒険者にとっては割と他人事じゃない。

 だって貴族もちらほらいるにせよ、大体が平民かスラム出身の冒険者ばかりだからね。

 国が脅迫してきたら一個人では太刀打ちできないのも事実だし、他のことはともかく対エウリデ連合王国という観点においては、やたら連携しがちなのが迷宮都市の冒険者達なのだった。

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