第6話 迷宮だよー
あわわわわ、大変な目にあったよー。
いつも通りのギルドでの依頼受諾ってだけの流れが、なんでか地獄のガチ説教大会開幕の流れになっちゃった。これ僕悪くないよねたぶん。逃げてもいいよねー?
というわけでそそくさと施設を離れて町の外へ。迷宮都市は簡単に言うとピザみたいな形をしていて、耳の部分にあたる外周部には城塞が建っている。
その城塞の、東西南北四方にある門から外に出て僕ら冒険者は迷宮へと向かうのだ。いつからあったのか、どこまで深いのかもまるで分からない世界最大級の迷宮へとね。
「おっ、杭打ち。今日も迷宮か? おつかれさん」
「お疲れ様でーす」
街の内外を隔てる門を守る守衛さんと、軽くやり取りをして外へ。冒険者をやってる以上、門番さんとは仲良くしておくに越したことないよねー。
数日ぶりの町の外はいつもどおり、風が気持ちよく吹き抜けるなだらかな大草原だ。でもよく見るとあちこちに穴ぼこが空いていて、それって言うのが実のところ、全部迷宮への入り口だったりするんだよね。
穴のそばには看板が立てられていて、その穴から迷宮のどのあたりに侵入できるかの簡単な説明書きが添えられている。
地下○階直通とかね。まあ、そもそも迷宮の構造自体がまだまだ研究途上にあるようだから往々にして、間違った情報が書かれていたりするけど……
それでも実際に潜ってみた上での情報がそれなりに書かれているから、迷宮での冒険においては極めて重要な情報の一つと言えるだろう。
あちこち空いてる入口をすべて、素通りして僕は草原を歩く。この近辺の入り口は浅層に通じているものばかりで、今回僕が狙っているゴールドドラゴンがいる階層には到達できないのだ。
そもそも、いきなりそんなショートカットができる入口ってのがまず珍しい。運良く発見できたとして、現状人間が到達できている最深部に近い領域への直通ルートなんて、危険すぎてあまり近寄りたくないのが普通なのよね。
それにそういうところって大体、高ランクパーティーによって私物化、もとい厳重な管理の上での運用がされているため、僕みたいな個人勢がアクセスできるような代物でないのがほとんどなのが現実だ。
だけど今回、僕は迷いない足取りでそうしたレア入口を求めて進んでいる。わざわざ迷宮の深部に行かなきゃいけないような依頼を受けたのも、そもそもあてがあるからなんだよねー。
草原を行けばそのうち、森が見えてくる。町の姿もまだまだ大きく見える程度の距離にある、そんなに大きくはない森だ。
狩りの依頼を受けているのか冒険者もちらほら見える。弓矢を持ってうろつく姿は町中だったら通報ものだなーと思いつつも、僕はそうした人達を抜けて森の奥へと向かった。
人のよく通る道を逸れた、獣道とさえ言えない道なき道をひたすら歩く。
「…………あったー」
隠し地点、というにはまあまあ分かりやすいけれど。進んでいくと少しばかり拓けた、そして清らかで綺麗な水を湛える泉が見える土地に辿り着いた。
ここが今回の目的地だ。泉のそばに、迷宮への出入り口があって──なんとそこから一気に地下、86階にまで下ることができるのだ。
現在公的な資料における、迷宮最下層到達地点は88階だ。そこから約3年、冒険者は足踏みしまくっているわけだけど……つまりは最下層到達地点に近い階層にまで、ここの出入口を使えば一気に侵入できるってわけだった。
僕の他、Aランク冒険者やその知り合いの何人かしか知らない、まさに隠し出入り口なのである。
「知ってたとして、こんなところ利用する冒険者も一握りだもんなー。地下86階なんて、まあまあ地獄だし」
地下迷宮は10階ごとに出てくるモンスターの強さとか分布が変わる。80階台ともなるとAランク冒険者のパーティーでも気を抜くと、全滅しかねないような化け物が屯して襲いかかってくるのだ。
そんなだからこの出入口が仮に周知されたとして、Aランクの中でも特に迷宮攻略に精を出すタイプの人達くらいしか使ったりはしないだろう。立ててある看板にもほら、ドクロにばってんマークがついてる。"危険! 入ると死ぬよ? "ってやつだ。
「よし、じゃあ行きましょっかねー」
そんな危ない出入り口に、躊躇することなく僕は入っていった。
緩やかな斜面を滑り台みたいに下っていくと、ひんやりした暗くて冷たい闇の中をどこまでもどこまでも……底無しってくらいどこまでものんびり滑る。
帰りはこの斜面を登っていくわけなので、行きはいいんだけど帰りこそが辛いんだよね、深い階層への出入口は。でも正規ルートを逆走するってなるとどんなに急いでも一日二日じゃ利かなくなるから、結局のところそうするしかない。
『────!? ──! ──────!!』
『! ──!! ────!!』
「────ん、声? なんだろ、戦ってるー?」
結構な時間滑ってると、なんか密やかに声が聞こえてきた。滑っている先から聞こえてくるんだけど、何やら切羽詰まっているというか、阿鼻叫喚な感じがする。
辿り着いた先で誰か何かやってるのかな? 先客がいるって結構珍しいけど、知り合いの冒険者パーティーの人達だろうか。でも変に焦ってるし、ちょっと考えにくいかも。
『────やばい──塞がれた!!』
『──逃げ────駄目よ嘘、ここ本当に86階なの!?』
「えー……?」
段々ハッキリと聞こえてきた声だけど、思った以上にアレな単語を拾ってしまった。
察するにたまたま見つけた出入口に好奇心半分で入ってみて、それでモンスターに襲われてるっぽいよねこれ、しかも複数人。
何してんのさもう、入ると死ぬのにー。
そろそろ斜面の下りも終わりに近い。出口が見えてきたけど何か、モンスターっぽいのが塞いでいるね。こいつをどうにもできないから阿鼻叫喚なわけか。
僕が来てよかったね、誰かさん達か知らないけど。後で特上ステーキ奢ってくれたらチャラにしてあげよう。じゅるり。
「ステーキ、素敵……さーやろっかあ」
杭打機を右手に装備して、息を整える。
まさかこの流れは予想しなかったけど──穴の出口。
僕は即座に飛び跳ねて、自慢の相棒を出口の前に陣取っているモンスターの後頭部に叩き込んだ!
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