第43話 おしどり夫婦の裏表

 おばあちゃんの家に行くのは憂鬱だ。夏休みのこの時期は、いつもおばあちゃんの家に行く。

 もう迎えてくれる人もいないのに、家の管理はしなきゃいけない。

 思い出深い家だし、私だってなくなったら悲しい。


「準備できたか?」


「うん」


 運転席からのお父さんの声に、私は玄関でもたもたと鍵をかけるお母さんの姿を見ながら頷いた。


「ごめんごめん、遅れちゃった」


 お母さんが車に乗り込み、いつもの道順でいつものようにおばあちゃんの家へ向かう。

 高速道路に入ってから、お母さんが「さきはいつも眠っちゃうのよね」と言った。


 私は、とっさに「違う」と言いたかったが、ふと小さい頃のお母さんの言葉を思い出した。


「そういえば、お母さんは運転するお父さんが好きなんだよね? 昔、おばあちゃんの家に行くときに聞いた気がする~」


 せめてもの親への抵抗だ!


「そうだった?」


「お母さんは運転するお父さん見てなきゃいけないから眠らないんだって。変な照れ隠ししちゃってさ~」


 お父さんが少しはにかんだ。

 それを見たお母さんが、はっはっはと大きな声で笑う。


「違う違う! 昔、さきが生まれる前に、お父さんに言われたのよ。車に乗ってる間に眠くなったら眠っていいって」


「それがかっこよかったの?」


「『僕も寝る時は眠っちゃうからその時はごめんなさい』ってジョークにしてもほどがあるでしょう? だから見張ってるの」


 お母さんの言葉に、私は「も~、お父さんってジョークが下手だよね~」と一緒に笑う。

 ルームミラー越しにお父さんを見ると、笑ってなかった。


「え、まじなの?」


「いやぁ……基本的にはがんばってるんだけど、寝ちゃうときは……寝ちゃうから」


 このお父さんの言葉に、私もお母さんも笑えなくなってしまった。

 それ以来、私は友達の車に同乗している時にでも、けっして眠ろうと思えない。



  ☆  ☆  ☆



 今日は、隣の県にあるおばあちゃんの家に行く! 夏休みの恒例行事だ。わたしは楽しみに、足が勝手にバタバタとはしゃいでしまうのに合わせて、その場でくるくる踊った。

 今日から夏休み! いえーい!


「準備できたかー?」


「うん!」


 玄関から聞こえるお父さんの声に、わたしは勢いよく返事をした。


 車の助手席にはお母さんがすでに乗っていて、わたしの準備を待っていた。車の中にはおばあちゃんのために選んだお土産、プール用のうきわやボール! いっぱい遊びたい!


 最初は、窓から見るいつもの街から見知らぬ街。うつりゆく景色を、楽しんでいたけれど、だんだんと眠くなってしまった。

 高速道路がいけない。景色も一緒だし、一定の速度の車はまるでゆりかごだ。


「さき、眠いならねちゃっていいわよ~」


「うん……」


 お母さんの言葉に、頷いた。


「お母さん、ねむくないの?」


「お母さんは、お父さん見てなきゃいけないから眠れないのよ」


 まったくもう、とお母さんが言う。

 わたしのお父さんとお母さんはとても仲が良い。おしどりふうふだって言われてるし、運転してるお父さんはかっこいいから、らぶらぶなのかな。

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