第39話 これからはよろしく
久しぶりに見た故郷は荒れ果てていた。
一歩一歩踏みしめるたび、乾いた地面から土埃があがる。
全ての生物が死に絶えた土地、そこか私の故郷だった。幼いころに友達と駆け回った草原には、今や何もない。
様々な天災に見舞われ、見る間に衰え滅びゆくこの土地は『呪われた土地』として、種族を問わず立ち入らない場所になってしまった。
呪いと言われる現象が、私に現れる。
体からマナが抜け出ていく。
魔法を使うにはこのマナが大事だ。この魔法の力が操れなければ魔法を発現できない。
この土地では、このマナが勝手に体外へ放出される。魔法を使っても威力は半減、持続性をほとんど失う。
「みんな、大丈夫?」
私が振り向くと、数人の子供たちが楽しそうに体を動かしていた。馬車に繋がれていた騎獣はその場にへたり込んでいる。
騎獣が動けなくなったので、様子を見るために外に出た。
私も体がだるい。
そんな呪いを受けながら、子供たちは元気そうだ。ある者は魔法を使い、ある者は跳ねてみたり。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「走れる! 体が痛くない!」
嬉しそうにはしゃいでいる。
世界のマナのバランスが崩れた結果、たまたま足りなくなったマナを奪われることになったのが、私の故郷だ。
綺麗にはっていた布のどこかに力をかければ、そこへしわが集中する。そして端っこの布が足りなくなる。
私の故郷はその端っこだ。
どうにか生まれ育った故郷を回復させたかった。
様々な研究施設を巡り、出会ったのが彼らだ。
呪いの研究ではなく、私は別の形でアプローチをすることにした。
マナに支配されたこの世界では、数千人に一人くらいで膨大なマナを宿した子が生まれることがある。その子は長くは生きられない。
体が膨大すぎるマナの奔流に耐え切れないからだ。
そんな彼らとマナを奪い取る呪い、どちらが勝つだろうか。
土地から生物が消え去ったのは、足りないマナを補充するため。
マナの量は、基本的には血筋に影響される。病気や事故での子供の死亡率は市民階級の方が高いが、マナの暴走やそれによる突然死では圧倒的に貴族階級の子供の死亡率が高い。
運が悪い、と言ってしまえばそうなのだろうが、高いマナを持つもの同士を掛け合わせ続ければそう言ったことにもなるだろう。
その解決策が、この呪われた土地だ。
私は知人経由で教会を説得した。
『この『呪われた土地』を利用して、救われた子供たちがいたらそれは呪いではなく祝福ではないか』
この土地の存在を利用しよう、そう持ち掛けた。
そうして試験的にやってきたこの子たちは、開拓民となる。
貴族階級の子がやってくる前の、この荒れた土地を整えるための。
「もう少し進めば、私の生まれた村があるわ! 廃屋だろうけれど、何もないよりはずっと良いわね」
「馬車はどうするの?」
「魔法が使える子はいる?」
私の言葉に、何人か手を挙げる。
「馬車を浮かせてもらえるかしら」
そのお願いに、子供たちは目を輝かせて我先にと騎獣の綱を外して馬車に魔法をかける。
騎獣は本能からか、この土地から離れるように走り去ってしまった。
私は人よりマナが多いくらいだから辛いけれど、救世の目的で故郷にマナを運ぶことができた。子供たちも救うことができる。
いつか、またこの土地は緑豊かな村になる。
子供たちを先導しながら、村があったところへ辿り着く。ボロボロの家屋に、やせこけた土、枯れた井戸。記憶の景色とは全然違ったけれど、ここを捨てた時と違い、私の心は希望に満ちていた。
「お姉ちゃん、ここが僕たちの住むところ?」
「そうよ、これからここに、みんなの村を作るの」
私の言葉に子供たちははしゃいでいる。この子たちも、はじめての健康を満喫しているのだ。
村の広場があったところにはボロボロの神像があった。
「これからも、よろしくお願いします」
必死に逃げ出す時に、私は村に向かってずっと謝っていた。呪いと聞いて怒っているのかと思っていた。
その上で置き去りにしたこと。
その時と同じ優しげな笑みを浮かべる神に、今度は決意と共に挨拶をした。
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