第17話 故郷の呪い

 僕の住んでいた国は、昔はとても栄えていた。

 けれどもある日、災厄が舞い降りた。


 それは古い竜だった。

 年老いた彼はこの国が出来る前に、この場所で生まれ落ちたのだという。それこそ神話で語り継がれるような歴史が生まれるよりも昔に。


 死を前にして、生まれおちたこの土地を譲り渡して欲しいと交渉してきた。

 その結果、僕の住んでいた国は場所を移すことになった。こんな竜と全面戦争などして勝てるはずがない。


 王族は別の領地へ。国の中心は大きくずれてしまった。


 数か月かけて納得していったものは僕のように移民になり、拒否したものは竜が国に降り立った時にまるで砂のように全てがなぎ倒された。


 そして竜はゆっくりと大きなあくびをして永い眠りについた。

 元々国で中心だった場所は巨大な墓標になった。


 一つの都市を潰し、全てをバラバラにしたとして貴族たちには価値の高いものが残ると思ったのだろう。

 古代竜の素材だ。

 死んだ後の体を有効活用すれば、どれほどの価値になるだろうか。他国との交渉材料にもなるかもしれない。


 そんな目論見があったと聞く。


 だが、今のあの竜の体は遠くから見れば巨大な竜そのもので、時間と共に長い時間をかけて巨大な山のようになりはじめている。


 人が素材を採取しようとすると、それまで固かった竜のウロコも、皮膚も全てが土くれに還ってしまう。エルフは森を育てる土地として大喜びで竜の骸の周囲に住み着き始めた。


 結局、竜の眠りはこの国にとても深い呪いを振りまいた。あの山は巨大な墓標だ。

 それでも失った故郷を忘れられず、僕らは少し離れた草原に集落をつくった。


 形を変えても、あの場所は僕の故郷であることには変わりない。

 子供から大人になり、家族ができ、故郷を思う気持ちが強くなるにつれ、あの古き竜を恨むことがどうしてもできなくなっていった。


 どれだけ永き時を生きようとも、暖かいところに帰りたいという気持ちに種族も時間も関係ないのだろう。

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