第13話 視線
俺は心霊体験っていうのはしたことがない。ただ、小さい頃に親の手を掴んだと思ったら知らない人だった事があった。
今でもその時のことでこうして誰かに聞いてしまう時がある。
「俺の後ろに女の人立ってたりする?」
何となく聞いたのは、大学の友人だったが、ふざけた調子だったそいつは俺から目をそらした。
当時、いくつだったか覚えてない頃からついてくる。ただその時のことは今でも夢に見る。人ごみが嫌いだった俺は母の手を引いて「早くおうち帰ろう」と言った。
「そうね。早く帰りましょうね」
そう優しく応えられて、そこで初めて知らない人の手をにぎってしまった。おばさん、っていってもとんでもない美人だ。
その人はニッコリ笑って離れようとする俺の手を掴んだ。
このままどこかに連れていかれる!!
そう思って必死に泣いても、
「泣かないで~」
そうあやされる。周りから見たらきっと親子に見えただろう。
誰も助けてくれなかった。
でも泣いていたからか、親が見つけてくれた。
それから買い物に行ったとき時折、そのおばさんを見かけることがあった。
幼稚園の送り迎えや小学校の行事とか、そういうところにもやってくる。さすがに親も焦っていた。
俺は「警察に助けてもらおう」って言ったんだけど、かわいそうな人だから、という言葉でにごされるだけだった。
なんでも昔に子供がいなくなっちゃったんだって。海で。
死体が見つかってなくて、おばさんそれからちょっと変になってしまったらしい。
どうやら俺はその子供に少し似てるらしい。
親は誘拐されるかもと心配して、おばさんの家族に相談した。おばさんの父親だ。常識があって真面目を絵に描いたような人で、相談すると「すみません。注意しておきます」って頭下げてくれた。
そしたらいつも感じてたおばさんの視線がぱったりなくなったよ。
一週間くらいして俺はおばさんの家に行った。
おばさんの父親が「娘が謝りたいと言っている。来てもらえないか」と連絡したからだ。最後にどうしても似た姿の子供を一目見たいと言われて、両親や祖父母と共におばさんの家に行った。
今は誰に聞かれても、その時の事は覚えてないって言ってるが、本当は覚えてる。
座敷に通されて、おばさんの父親は二階にいった。
だが全然戻ってこない。なんだかトイレに行きたくなって俺はおじいちゃんに付き添ってもらってトイレに行った。
洗面台で手を洗っていると、風呂場から物音がする。
おじいちゃんも驚いて、俺たちはお風呂を見に行った。入浴中ではないようだ。それでもバタンバタンとおかしな音が続く。
気になって風呂を見ると蓋が揺れている。おじいちゃんがお風呂の蓋を開けると、おばさんがアザだらけになって縛られていた。ガムテープでぐるぐる巻きにされている。
おじいちゃんが急いで口についてたガムテープを外した。俺は急いで両親を呼びに行った。そして両親と祖父母と急いでおばさんの家から出ることにした。
この家はおかしい。
風呂場からおばさんの「はやく逃げて!!」と怒鳴る声がする。
それでも招かれて勝手に帰るのはどうなのか、と少し大人たちが迷っているうちに、二階から足音が降りてきた。
「何で殺したのに戻ってくるんだ!」
おばさんの父親だ。
父に抱きかかえられて、俺たちはすぐに逃げ帰った。よくは見ていないが、おばさんの父親の手には何か刃物が握られていた。
「ぼく、早くお家に帰りなさい!!」
そう叫ぶおばさんの声が今も夢の中で響いてる。
あれから何年も経って、俺は煙草も酒も大好きな大人になった。
今でもたまにおばさんの視線を感じることがある。
結局、俺への付きまといはニュースにも事件にもならなかった。あの家はその晩に焼けてしまったからだ。敷地からは二体の遺体が発見されて……。
それで、俺がどうして「俺の後ろに女の人立っているか?」を聞くのかと言うと、それからもその視線を感じることが多いからだ。
見えるって人だと女の人じゃなくて、おじいさんが見えるらしい。女が見える場合は、ちょっとびっくり。おじいさんが見える人は、目を背ける。
何の違いがあるのか見えない俺には分からない。
どうしても煙草がやめられないのは、煙草を吸っている間はその視線から解放されるからだ。
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