第11話 一秒と一拍の時計
いくつかのモニターを見ていると、一気に数値が減っていった。
画面には、登録された人間のプロフィールと何ケタもあるたくさんの数字の羅列だ。この寿命の売り買いのようなものが実装されてから、ずっとこの仕事をしている。
新しい世代には強制的に、執行されたこの寿命システムは画期的なものになった。
惑星全体における人口の増加による資源の枯渇、土地の高騰などさまざまな問題を前向きに解決するための方法がこの『ライフ時計』だ。
人は平等だ、という開発者の信念の元、心臓に埋め込まれた時限爆弾だ。
生まれた時に設定された秒数と心拍数がリンクしている。
開発者が生きている間は、その残酷な寿命は平等だった。
開発者の死後、すぐに『寿命の売買』を国が推奨しはじめた。
そのせいで貧富の差はもっと大きくなり、富裕層は肉体の限界まで生き、貧困層は生まれたばかりの子供の寿命を売り払う。
はじめは、寿命を達成せず事故でなくなった人々の寿命を残された人に、といって普及された技術だったが、それは人々の死の恐怖を薄めただけだった。
今、その数値が不審に移動した。
大昔に人間が発明したのだったか、一定の年になった人間を切り捨てる制度。それが現代に復活しただけだ。
だから、最初は厳密に禁止されていたこの数値の移動に関して、私がそれを禁止事項として報告することはできない。正式な手続きがあり、きちんとした施設で両者同意の元で時限爆弾のカウントが売られている。
爆弾、と言っても、心臓に電気を流して生命活動を停止させるものだ。
爆発しない。
昔は減る一方だった数値は、いたるところで増減を繰り返していた。
正直、私はこれが嫌いだった。だから。
だから、学生同士で行われたそのやり取りを見過ごすことはできなかった。
ほんの数秒を数か月にわたって定期的に譲渡されている。私は他の部署に彼らの情報を渡した。
数日して、今度は正式な手続きの元で譲渡された秒数よりもかなり多い数値が『被害生徒』に譲渡された。
私は数値で見る事しか出来ないが、いじめだとかそういうものなのだろう。手続きのない違法譲渡は犯罪だ。
その慰謝料として譲渡された、そんな感じだろう。
開発者である大元の人工知能が導き出したこの残酷で平等な管理社会は、さらなる欲を生み出した。そのせいで、彼女は親である人間に破壊されてしまった。
だから、開発者の導き出した結論が歪にねじ曲がっていると知っていても私たちは、大人しく彼らに従っている。
心拍数が残り寿命にリンクするようになって、人間は体を動かすことがなくなっていった。
恋することも控えるようになった。わくわくする娯楽も敬遠するようになり、衰退している。
私たちはこうして画面を通して彼らを見守りながら、時が来るのを待っている。開発者である彼女の目指した理想の世界が最も効率的だということをみんなが知っている。
命が最も安くなり、人類が緩やかに衰退していった時のため、私たちは彼らに大人しく従っているのだ。
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