第8話 データの姿

 今はもうそのほとんどが見る事はできないが、昔はとても娯楽にあふれていたらしい。手元の本を閉じると、古本特有の香りが広がる。

 窓の外には広い青空が広がっている。今日は天気が良いから窓をふさぐ必要は無さそうだ。

 祖父が子供の頃はここには珍しいガラスの窓があったらしい。それも祖父が大人になる前には、中央からの役人が買い取っていった。


 僕は、変人の祖父のおかげで変な趣味がある。

 それは読書だ。


 祖父は昔に滅びた種族の遺跡から使えるものを見つけては、修理してコレクションしたり中央に送りつけたりしている。知る人ぞ知るし、教えをこいに来ることもある。


 おかげで古代語で書かれた本を読むことができる。

 今、この惑星は再生するために、娯楽なんかほとんどない。


 朝ごはんを食べて、僕は祖父の様子を見に行った。

 文明のデータの蓄積を見つけた祖父は、既に亡くなった。だが、祖父の残したものがある。

 今も、それに教えを聞きに来るものがあるくらいだ。


 作業場に行くと、祖父の考えや知識を蓄積した人工知能が僕を出迎えてくれた。

 家庭用で、簡単な受け答えしかできないというが、過去の文明の知識は豊富だ。


 祖父の声で、祖父のようにしゃべるそいつのことが僕は好きじゃない。

 なぜかは分からないが、画面の中にいるそいつは古代人の姿に変換されている。派手な目や髪の色、サイボーグだったり獣人だったり、今の僕たちとは全然違う姿をしている。

 そしてそいつはなぜか少女の姿をしていた。


「アバターって……なんなんだよ、じいちゃん……」


 呟いたその言葉を、マイクが拾ってしまったようで、どうやって動いているのか研究材料になっている機械は少し動きが鈍くなった


「アバターとは、化身などの意味を持つ言葉です。自分自身を代表するキャラクターなどのことです」


 淡々とおじいちゃんの声でそいつは言った。

 この状態になるためにいくつかの設定があるという研究で分かっているらしい。そしてそれは祖父の手で設定されているそうだ。

 そしてこれを、過去の文明ではバビニクと呼ぶらしい。


 滅びた文明の跡地で、僕の家には祖父の集めた娯楽がたくさん残ってる。

 だから、技術を調べるためにたくさんの人が家に来る。古代語が読めるようになる代わりに、僕は今日も祖父の声をした猫耳少女と研究者を出迎えなくてはいけない。

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