雨宿りのピカソ

真真

第1話 雨宿りのピカソ

僕は傘を持つのが好きではない。いや、むしろ嫌いである。


雨が降るか降らないかわからない日に持つ傘の存在も煩わしい。


まだ降っていない状況の時、コンビニの傘立てに傘を置く不安ときたら最悪である。


"誰かに拐われるかもしれない"となる。


あの時、日本の治安の曖昧さをスーパー感じるのだ。


そんな僕が、今日はテレビの予報に乗っかって珍しく傘を持っていた。


そして、雨はちゃんと降り出した。大雨である。


桜が散ったアスファルトは一瞬にして濁っていく。


無事に傘が開いて、モヘアのカーディガンが濡れることは回避できた。


が、閉店した自転車屋の前でびしょ濡れの女の子が雨宿りをしていることに気づく。


"おいおい風邪引くだろ、そんな状態でいたら……"。


そう思って、雨宿りをしている女の子に傘をあげようとしたら、近づく僕に女の子がこう言った。


「大丈夫です。私カツラなんで」


知らんがな! とツッコミかけたが、よく見るとちゃんとヅラだった。


しっかりと漆黒のシシドカフカが乗っかっている。そしてズレている。メイクも落ちているもんだから、それはもう、ほぼピカソの絵。


"いや、ちょっと待て! そんなことよりヅラっていつから雨具になったんだ!?"。


「大丈夫です。私カツラなんで」


「あ、そうだったんですね。ごきげんよう」


って去れるか! ピカソ女!


僕はもう一度ピカソ女に聞いた。


「本当に大丈夫?」


すると、ピカソ女は僕をジーッと見て、少し笑いながら言った。


「え、ナンパですか?」


ナンパだと思われた。


違うに決まってんだろ! バカピカソ! それに、お前! 自分が今どんなビジュアルになってるかわかってんのか!?


と、静かに心でシャウトした。


そして僕は、傘だけ置いてその場を走り去った。


時として、善意で行ったことが相手には"ナンパな行為"になることがある。


そして今、何故かフラれたような気持ちで雨に舞う桜の中を走っている僕。


ずぶ濡れになりながら"知らない人に声をかける時は、リスクを伴う"ということを胸に刻んだ。


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雨宿りのピカソ 真真 @shinshin_k

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