16
「貴様は何か知っているのか? ならば説明してみろ」
振り返ったプルドンは剣を抜き、クスリラに突きつけた。
刃を目の前にしたクスリラは、思わず仰け反って彼から距離を取る。
それでもそのおどけた様子からは、
むしろ状況が飲み込めないプルドンのことを、からかっているかのようだった。
「怖いなぁ。いきなり剣を抜くなんてまるであたしが敵みたいじゃないですか。あたしはあなたに帝国軍の夜討ちを教えてあげたんですよ。いうならばこの
ふざけた態度を取るクスリラを見て、プルドンは怒りを覚える。
まるで自分をとらえたといわんばかりのその目。
最初から取り乱すことがわかっていたかのようなその視線。
そのような目でこのプルドンを見ることはゆるさん。
プルドンは剣を構え直し、クスリラへと斬りかかった。
状況こそ理解していなかったが、彼の将としての勘がこう言っている。
この女は今すぐこの場で殺すべきだと。
だが、それは
突如間に割り込んできた黒髪の女戦士によって、プルドンの剣が弾かれる。
「お
「むぅ!? 貴様はたしかブティカ·レドチャリオの!?」
プルドンは慌てて身を引き、現れた女の姿を見た。
暗闇の中で
プルドンの剣からクスリラを守ったのはラフロだった。
「ブティカ将軍の配下、ラフロ·シグルモルトです。以後お見知りおきを」
「バカな!? なぜブティカの配下がこんな近くにいるのだ!? クスリラ·ヘヴィーウォーカー! やはり貴様、
表情を歪めて
額に血管を浮かせた髭の男を見て、クスリラはニッコリと微笑んだ。
「どう? あたしの兵法も捨てたもんじゃないでしょ?」
「こんなもの兵法とは呼べぬ! 自らに
「そりゃそうだ。でもとっても残念なことに、あたしにはそんな立場とか誇りとかってものがないんだよね。勝つためなら泥水すすったり、ましてや傷つくことなんて気にしないのよ」
ラフロの後ろへと下がり、彼女の背後から手を振って踊るように言ったクスリラ。
プルドンは身を震わせながら思う。
この戦いはもうダメだ。
おそらくクスリラは、ブティカに少数で夜襲を行わせ、兵を率いたラフロに陣を囲ませていたのだろう。
そして陣内が混乱したと見ると、一斉になだれ込ませたのだ。
いつもなら鉄壁の守りで押し返せたが、ブティカを狙って兵を彼女に集中させていたため、守りに気が回らなかった。
「この俺が……知恵比べで負けるというのか……? こんな小娘に!?」
プルドンはクスリラのいい様にされていたとすべてを理解し、湧いていた怒りがさらにたぎり出していた。
たとえ戦に
「くぅぅぅッ! ふざけたことを言いおって! 殺してやる、殺してやるぞクスリラ·ヘヴィーウォーカー! 俺を
「そんなことはさせん」
火の手が上がった反乱軍の陣、その燃え広がる炎の中から赤い髪の女――ブティカ·レドチャリオが現れた。
その束ねた赤い髪をなびかせ、ブティカは柱のような大剣を構えてプルドンへと迫る。
敵の総大将を見たプルドンは、クスリラから彼女へと標的を変えて斬りかかった。
プルドンの攻撃を大剣で受け止めたブティカは、その鋭い眼光はそのままに口を開く。
「プルドン将軍。すでに勝敗は決した。大人しく
「うるさい! かくなる上はせめて貴様の首だけでも取り、我が同志たちへの最後の贈り物にするまでよ!」
「できるかな? 一騎討ちは私の
ブティカは受けた剣を押し返し、プルドンに攻撃を開始する。
とても大剣を振るっているとは思えぬ剣速で、相手に手を出させない。
その剣技は、素人であるクスリラでも
今さらだが、演技だったとはいえブティカを怒らせて命があることに、彼女は心の底から
「くッ!? さすがはリリーウム帝国最強の戦士よ! だが、このプルドンただでは死なん! 貴様も地獄へ連れていくぞ!」
次第に追い詰められていたプルドンは、一か八か相討ちを狙って突進してきた。
斬られるの覚悟で距離を詰め、ブティカの
だが、そうはいかない。
ブティカは向かってきたプルドンを剣ごと払い、その態勢を崩させた。
そして、丸腰になったまま仰け反るプルドンの頭上に、分厚い刃を振り上げる。
「殺しちゃダメェェェッ!」
そのとき、クスリラが声を張り上げた。
ブティカは彼女の声を聞くと、剣を振り落としながら答える。
「ああ、わかっているぞクスリラ! この勝利はお前のものだからな!」
ブティカの大剣は振り落とされた。
しかし、プルドンの体からは一滴の血も流れていなかった。
それはブティカが寸前で剣を傾け、刃のない部分で振り落としたからだった。
それでも柱のような大剣の一撃を喰らったプルドンは意識を失い、もう立ち上がることはなかった。
「敵将プルドンを捕らえた! 私たちの勝ちだ!」
剣を高々と上げ、勝どきを上げたブティカ。
こうして平原戦での決着は、リリーウム帝国軍に
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