第二十一話 私の大切な人、風花編
「それで、イマイズミさんとキスぐらいした?」
お昼休み、学校の中庭のテーブルでお弁当を食べていると、親友の
食べていたサンドイッチを噴き出しそうになって、慌ててお茶で押しこむ。
「はあ……びっくりした……」
彼女とは小学生からずっと仲良しだ。私と違って長い黒髪、モデルさんのような目鼻立ち。
手足はスラリと長く、何度も芸能界に入らないの? と誘っているけれど、興味がないとのこと。
「式さんとは仲良しなだけで、そんなことしてないよ。この前ちょっと色々あったけど」
「それって、お泊りの? そこでシちゃったってこと?」
「え、ええ!? してないよ!? あれは……その……式さんが優しかったから来てくれただけで、何かあったわけじゃないし!?」
そして――密かな想いも。
「ふうん、風花がいつも話してる式さん、私もそろそろ会ってみたいな~」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、紙パック牛乳のストローを飲み干す。
こういう時の
「12歳差だっけ?」
「う、うん。でも、仕事上の付き合いだからね!? 確かにその、素敵なところは沢山あるけど」
「へえー、たとえばどんなところ?」
「いつも迎えに来てくれるところ、好きなお菓子を用意してくれるところ、明るいところ、真面目なところ、優しいところ、気遣いがあるところ、髪の毛がサラサラなところ――」
「大好きじゃん、普通、そんなスラスラ出てこないよ」
「ええ!?」
ハッと気づいた瞬間、気づいたら顔が赤くなってしまっていたことに気づく。
式さんのことを考えると、いつも夢中になってしまう。
「わかりやすいねえ、風花は」
中身のなくなった紙パックが、ペコリと音を立てる。
「じゃあ今日、式さんに会いに行こっと」
「……え?」
◇
「お疲れ様、風花」
学校終えると、いつもの場所で式さんが待っていてくれた。
今日は撮影ではなく、次回の仕事のお話をすることになっている。
けれども私の後ろには、美鈴がくっついて来ていた。
「あの、式さんお願いがあるんですけど……」
「どうした?」
「はーい、初めましてー!
「え、は、え、え!? だ、だれ!?」
話をする暇もなく、美鈴に腕を引っ張られる。後部座席に押し込まれるように乗り込むと、式さんは困惑して後ろを振り返った。
「……お友達?」
「はい! 今を時めくJC二年です! 風花の親友です!」
「多分、前に交換日記で書いていたと思うんですけど、覚えてますか??」
すると式さんは少し考えてから、「あ」と声をあげた。
「いつも元気で明るい美鈴さんね。確かに日記通りだ」
「えへへー、風花そんなこと書いてくれてたの? ありがとー!」
元気な美鈴、何かしでかさないとヒヤヒヤしているけれど、私の好きな二人が会話をしているのはちょっと嬉しかった。
「それでどうしたの?」
「仕事の話をする予定だったと思うんですが、少しだけ3人で話せませんか? 出来れば、前のカフェとかで」
「話す?」
式さんは明らかに困惑していた。なんて言えばいいのか困っていると、美鈴が元気よく言った。
「私の風花とイマイズミさんがお付き合いしてもいいかどうか確かめたくて!」
「……はい?」
「美鈴、な、何言ってるの!? ただ、お喋りしたいだけっていってたでしょ!?」
「えへへー、それは建前、本音は隠すものでしょー?」
どうしよう、式さんに怒られるかも……。
「そうか、心配になるよね。わかった、じゃあカフェに向かおうか」
「おー! さっすが敏腕マネージャーさん! よろしくお願いします」
「ありがとう、持ち上げ方が上手だね。シートベルの装着をしてもらっていいかな?」
「式さんいいんですか? 仕事の話をキャンセルしてしまって」
「たまにはね、仕事ばっかりだと俺も疲れちゃうし」
式さんは嘘をつくとき、少しだけ、にへっと笑う。私の為に気を遣ってくれているのだ。
でもそれが嬉しかった。ほんといつも優しいんだから。
「じゃあ、お願いします! 美鈴、シートベルトは?」
「装着完了!」
「ははっ、じゃあ出発します」
いつもの車内、けれども隣には親友、そして前には――大好きな式さん。
……幸せだ。
◇
「どうぞ、気にせず飲んでね」
紳士的な対応で、式さんは私たちにオレンジジュースとシフォンケーキを置いてくれた。
ふふふ、やっぱり式さんは大人だなあ。
突然こんなことがあっても、ずっと冷静だし、格好良い。
「それでいくつか質問をまとめてきたんですが、いいですか?」
「質問? どういう?」
美鈴が突然、スマホで何かを見ていた。質問リスト、ってのを作ってきたらしい。
いつのまに……。
私は目くばせで式さんに謝罪したのだけれど、目線で大丈夫と言われた。
「ではまず一つ目の質問、風花のことを愛してますか?」
「ちょ、ちょっと待って!? 美鈴何言ってるの!? というか、それが一つ目!?」
オレンジジュースを噴き出しそうにないながら、思わず立ち上がって叫んだ。
美鈴は、そうだけどと答えた。
私が駄目だよと怒っていると、式さんは「大丈夫だよ」と返す。
大丈夫って!?
「愛してるとは気軽に言えないけど、風花のことは尊敬しているよ。仕事もプライベートもいつも一生懸命だし」
「私が思っていた返しとは少し違いますが……まあ、いいでしょう!」
「美鈴ー!?」
「では二つ目、風花のどこが好きですか?」
「もう、美鈴ー!?」
「どんな時も人の気持ちを考えて行動できることかな。大人よりも気が遣えるしね」
しかし美鈴は私の言葉を一切無視して、式さんに質問を浴びせていた。
そんな中、式さんは丁寧にずっと返していて、それも全部私にとって幸せな言葉ばかりだった。
途中から私はただ黙って頬を赤くしながら、なんというか、恥ずかしくも嬉しい時間を過ごすのだった。
でも、式さんやっぱり大人だなあ。
どんな時も冷静だし、あ、私に微笑んでくれた。……可愛い。
◇
「それじゃあここでいいかな、美鈴さん」
「はい! ありがとうございました! イマイズミさんのことがよくわかりました!」
「そうだね、僕も風花の親友と話せて良かったよ」
結局、式さんは美鈴を家まで送ってくれた。嫌な顔一つせずに。
「――式さん、いい人じゃん。私、この人なら風花を奪われてもいいよ」
「ちょっと、美鈴――」
「ばいばーい! おやすみなさい!」
去り際、美鈴は私の耳元で囁いた。奪われてもいいなんて、どこから覚えた言葉なのか……。
でも、本当は嬉しかった。二人が仲良くしてくれるのは、私にとっても居心地が良かったからだ。
それに大人な式さんも見れたし。
「嵐のような子だったね」
「はい、すみません……」
「いや、楽しい時間だったよ。それにしても綺麗なお友達さんだね。芸能界とか興味ないのかな?」
式さんの発言に少しだけ嫉妬してしまう。
けれどもそれに気付いたのか、式さんは優しく微笑んだ。
「まあでも、風花のほうが可愛いらしいから僕は好きだけどね」
「今日の式さん、なんだかずっと大人モードですね」
「そ、そうかな? それじゃあ、帰ろうか」
「はい! ありがとうございました!」
やっぱり――12歳差って、大したことないよね?
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