第8話 天才JKはド派手に登場する
「えっ、嘘、でしょ……? どういうこと?」
「いいねえ、新鮮な反応だ。人を集めた甲斐があったよ」
状況が飲み込めないユリが振り返ると、そこには笑みを浮かべる水本の表情があった。
それはいつもの優しい微笑とは違っていて、醜く口元を歪め、抑え込まれていた嗜虐心が表に溢れ出てきたような、悪魔のような微笑であった。
「ゴウちゃーん、写真で見るより可愛い子じゃないの。やるねえ」
「おいおい、いまの俺は水本タケルだよ。そっちの名前で呼ばないでくれるか?」
「おっと、悪りぃ悪りぃ」
半裸の男たちと水本が軽口を交わしている。
いや、彼は
ゴウちゃんとは誰だ?
名前からして、真っ赤な嘘だったのか?
「ってわけで本日のサプライズはAV撮影会場へのご招待だ! びっくりしたでしょ?」
「きゃっ!?」
水本に手首を捕まれ、放り捨てるようにベッドに投げ飛ばされる。
埃が舞い上がり、けほけほと咳が出る。
涙が出るのは埃のせいなのか、それとも別の何かが理由なのか。
「まったく、素直にうちに来ればただの盗撮で済んだのに。そんなナリしてガードが堅いんだから笑っちゃうよ」
「ぎゃはは! ゴウ……
「金髪ギャル処女がいるって聞いて、
「ハッ! 『それ面白そうじゃん』とかノリノリだったやつに言われたくねえよ!」
男たちの嘲笑がユリをぐるぐると囲む。
水本の馬鹿笑いが刃物となって、ユリの心臓を切りつけていく。
「って、せっかくのゲストを待たせて男同士でダベってももしかたねえべよ」
「一番槍は誰がいく?」
「俺が連れてきたんだから俺に決まってんだろうが」
「ええ!? そりゃないぜ。金髪ギャルの初物がいただけるって言うからわざわざ来たのによう」
「相手がババアだろうが毎回来てんじゃねえか」
「そうだ、ラーメンおごるからよ。それで初物ゆずってくれよ。うまい店見つけたんだわ」
「しゃーねえなあ、じゃあお前が最初な」
なぜこの水本たちはラーメンの話などしているのか。
見知らぬ男がのしかかってくる。
生臭い息が、酸っぱい体臭が、鼻の奥をツンと刺す。
恐怖で痙攣する喉から、必死で声を絞り出す。
「……や……だ……。たすけ……て……」
『うむ、承知した』
虚空から、声がした。
「……え?」
「うぎゃっ!?」
火花。
眼前で火花が散り、男が飛び退いて顔を押さえている。
「ちくしょう! スタンガン隠し持ってやがるぞ!」
「んだとぉ!? 舐めた真似しやがって!!」
「てめえら一気に押さえつけろ! ぎゃっ!?」
「ッてぇ!? なんだよこれ!?」
空中で火花が散るたび、男たちが悲鳴を上げる。
何が起きているのかわからない。
男たちが騒ぐ様子を見ていることしかできない。
『ユリよ、ベッドから降りて壁際に立ってくれるか?』
「え? あ、うん」
聞き覚えのある声。
それに従い、寝台から転げ落ちて壁際まで這い進む。
――次の瞬間。
\ \*. .’ / /
━━┓ ズ ┏━━
━━┓ ガ ┏━━
━━┓ ガ ┏━━
━━┓ ガ ┏━━
━━┓ │ ┏━━
━━┓ │ ┏━━
━━┓ │ ┏━━
* .!!ン!! ; ’
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
轟音とともに、天井をぶち破って巨大な人影が降り立った!
土煙の向こうから見えてくるのは、鉄と無数の線を組み合わせた異形の巨人!
屋上を、床板をいくつもぶち抜いてやってきたのは紛れもなく――
鉄塊を身にまとう、天元院アヤカその人であった!
「取り込み中、邪魔するぞ。一応確認しておくが、ユリよ、これは大人の恋愛で言う『プレイ』なるものではないよな?」
ユリは声も出せず、必死で首を横に振る。
「ならば遠慮は要らんの。刑法第177条強制性交等未遂、刑法第208条暴行罪、その他その他の現行犯じゃな。私人逮捕の要件は十分に満たしておろう。貴様ら、覚悟しておれ」
「な、何なんだテメエは!?」
土埃を全身にかぶった水本が叫んだ。
鉄の巨人はうぃーんがしょん、うぃーんがしょんとそれに向き直る。
「む、ワシか? 天元院アヤカと申す。お主は偽名水本タケル、本名山田豪太じゃな?」
「なっ、どうして俺の本名を!?」
驚く水本タケル――改め山田豪太に、アヤカが高笑いで応じる。
「はーはっはっはっ! こんなものは警視庁のデータベースに侵入して顔認識AIを走らせればお茶の子さいさいよ。だいたい、なんじゃクオンタムのコンサルティング部門とは。クオンタムとは長く一緒に研究をやらせてもらっているが、そんな部門は見たことも聞いたこともないわ。ワシを騙したいのなら、もっとマシな嘘をつくんじゃな」
鉄の巨人が腕を振り回し、ぼこんばかんと半裸の男たちを殴り倒しながら山田豪太に迫っていく。
「やっ、やめろ! 来るんじゃねえ!」
山田豪太はポケットからナイフを抜き、アヤカに向けていた。
その手は震えており、顔面からも血の気が引いて蒼白だ。
「ふむ、来るなと言うならそうしてやろう」
「へっ?」
鉄の巨人が歩みを止める。
「み、見逃してくれるのか……?」
「そんなわけがなかろう。ステルス解除じゃ」
アヤカの一言で、数十のドローンの群れが姿を現した!
それが山田を取り囲み、マニピュレーターを伸ばす。
「な、なんだよこれ!? くっ、来るな! あっち行けっ!!」
ドローンの群れは、振り回されるナイフを易々とかいくぐる。
マニピュレーターの先から火花が一斉に散って、山田は「ぎゃっ!!」と泡を吹いて崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます