第22話 女神☆降臨!


 〈天命の剣〉――すべての神々へ役割を与え、運命を定めるという神剣。

 人間界にわずかに残された伝承では『すべての生命の寿命を決めることが出来る』とされており、神話や昔話にも登場する。


 永遠の命を求める王が――

 神が持っていた剣を盗み出した怪物が――

 叡智えいちを得るために魔法使いが自らの身体からだを剣でつらぬき――


 などの話が有名なようだ。

 推測するに〈天命の剣〉はシステムそのモノであり、最高神の象徴しょうちょうとも言える。


 私の場合を例にげるのなら――世界を運用するために管理者として選ばれた――という所だろうか? そんな格好のいいモノではない気がする。


 そもそも、私をこの世界に連れてきたのは霊鳥シムルグだ。

 恐らくは世界という概念が存在する前にあったシステムで、世界から不要な魂を間引まびいているのだろう。


 野菜などと一緒である。

 より良い魂を収穫するために、不要な魂を地上から取り除いているのだ。


 ならば何故なぜ――悪人や犯罪者が始末されないのか?――という話になるのだろうが、神の立場から言えば一緒に見える。


 より白く、より黒く。その程度の違いだ。

 むしろ、なににもなれない魂こそ、無価値にうつってしまう。


 類は友を呼ぶ――ではないが、善行や悪行を積んだ魂は周囲に影響を与える。

 いくつもの世界を創造することで『魂というモノを育てる』という事が目的であるのなら、求められているのは『変化』だ。


 変化に対応できない存在や、自らを変えようとしない存在に価値などないのだろう。不変を許されるのは、神とその寵愛ちょうあいを受けた存在だけである。


 ゆえに『ちまたを騒がせる連続殺人鬼エリミネーター』となって出現した〈天命の剣〉に私は殺されたのだ。


 当時OLだった私は、女性だけを狙う連続殺人鬼エリミネーターの存在を素敵だと思ってしまった。


 死体となった女性は肉片へと化し、部屋中に血飛沫しちぶきと一緒に飛び散ると聞く。

 金品が目的でもなく、身体をけがす事が目的でもない。


 『殺す』というよりは『破壊する』といった印象だ。

 圧倒的な暴力で、すべてを終わらせてくれる存在。


 私はそれに憧れ、求めてしまった。

 死んだことに後悔はしていない。


 家と会社の往復だけの生活。我儘わがままな双子の姉にいびられる日々。

 恋に興味などはなく、すでに両親も亡くなっている。


 生きることに価値を見出せなくなっていた私は、連続殺人鬼エリミネーターに殺されることを望んだのだ。今でも、あの世界に未練などない。


 もしもかなうのなら、この先もずっと、私は誰とも関わらないでいることを望む。

 世界の停滞こそ、私の求める救済である。


 そのハズだった――



 ◆◇◆◇◆



 テレッテッテッテー♪ デデデン!


「私、参上!」


(――じゃなかった……)


「女神☆降臨!」


 ニンスィキルたちの歌が終わると同時に舞台ステージの上空に私は出現する。

 人々が――アレはなんだ⁉――と騒ぐ中、神殿長たちがひざを折り、いのりをささげた。


 演出としては十分だろう。

 燐火ローズによって作ってもらった神力をおさえる外套ローブを脱ぎてる。


 風が吹き、外套ローブを下で待機している月山ウルサスもとへと運んでくれた。

 信仰がないモノたちには、私の存在が妖精エルフに見えるのだろうが、今は状況が違う。


 その場の全員が息を呑み、私に平伏ひれふす。

 気分は水戸の御老公様だろうか?


「さあ、あなたたちの罪を数えなさい」


 と事件解決に必要な決め台詞ゼリフを私は告げる。

 烈風アウルが姿を変えた風をまとい、人々の前に女神として姿を現す。


 ここから先は私の仕事である。行き場を失い荒れ狂う神力。

 それが津波となって、この王都へと押し寄せている。


 烈風アウルがニンスィキルに手を貸していた神官たちから聞き出した情報によると、満月まんげつの夜、引き潮となって神殿の地下に洞窟が出現するらしい。


 恐らくは〈錬金術アルケミー〉によって作られた通路であり、月の満ち欠けと魔力に関係があるモノなのだろう。それは、ある島へとつながっていた。


 過去には――その島で神子みこが儀式を行っていた――という記録もあったようだ。

 神力を神子みこが集め、洞窟を通り、神殿へと流す仕組みだったと推測できる。


 〈錬金術アルケミー〉により作成した魔道具アイテムでなければ『神力を人々が利用できない』という情報は、燐火ローズの暮らしていた村でていた。


 神殿の地下にあるという洞窟自体が『魔道具と同じ機能を備えている』と考えるのが普通だろう。


 今、神力が暴走しているのは、その儀式を行わなくなったからだ。

 私は暴走する神力を借りて、島を沈めることにした。


 人々の信仰、暴走する神力、更には水霊ミズチという水を司る力。

 必要な力は手に入れた。


(やはり、最後に勝つのは私である!)


 ここからがハイライトよ!――敵の力を利用して、敵に立ち向かうのが王道。

 私はそれを特撮ヒーローから学んだ。


 人々には大津波に見えているそれは、私にとっては一匹の巨大な竜ドラゴンである。

 この場合は『海神かいじん』とも言うべき存在だ。


 強すぎる力なので、本当は使いたくはないのだが、今は仕方がない。


烈風アウル密林ジャガー水霊ミズチ――力を借りるね☆」


 そう言って、私は眷属でもある三人のメダル――いや、ソウルを使って大人の姿へと変身する。魂の欠けている、私だから出来る能力だ。


 人々の希望を胸に、より高く、より輝き――暴走する神力である――海神へと、その力を解き放つ。三人の魂を借りて――


「今、必殺の……ラムダーキック!」


 大胆な掛け声も忘れてはいけない。海神が開けた口目掛け、私は飛び込んだ。

 相手は暴走する神力。生命として存在するワケではない。


 であるのなら、倒し方は決まっている。

 海神の口から、大量の空気を送り込むのだ。


 水に物理攻撃が効かないのは分かり切っている。

 渦巻く風が大きく開いたあぎとを固定し、ひたすらに海神の体内へと風を流す。


 次第に膨張し、膨れ上がった海神は――ついにははじけ――霧散むさんした。

 竜巻とも呼べる風に巻き上げられ、周囲には雨となって降り注ぐ。


 しかし、神力まで霧散したワケではない。

 水の力で作り出した一匹の龍に神力をらわせ、天高く昇らせる。


 人々にはどう見えているのだろうか?

 巨大な水柱が天へと昇って行く――そんな所だろう。


 荒れ狂う神力をそのままに、かつて儀式が行われていたと思われる島へとぶつける。これで島は沈み、儀式を行うことはできなくなるハズだ。


 それは同時に神力が生まれなくなることを意味する。

 津波は消え、大量の水は再び大粒の雨となって、人々の頭上へと降り注ぐ。


 しばらくは海が荒れていたようだったが、すぐに普段通りの海の姿に落ち着く。

 今は多くの人々が感謝している。しかし、やがてはそれも風化してしまうだろう。


 ここに古き神の時代は終わり、新しい神話が生まれた。

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