第四章 女神降臨?

第18話 ゲーム知識が役に立つ


「まあ、こんなモノよね☆」


 どこからどう見ても、模範的クラシックな雰囲気の喫茶店だ。

 ちょっと男性趣味かもしれないが、レトロで落ち着いた感じがいい。


 今後、店員をやとうのなら、このお店に合う制服を考える必要もあるだろう。

 両手を腰に当て、周囲を満足げに見渡す私に対して、


「キュキュウ!」


 と『店長てんちょう』が鳴く。いつまでも名前がないのは不便なので、私が命名した。

 本当は『店主マスター』でも良かったのだが――


(喫茶店が失敗した場合のことを想定するとね……)


 それに『飼い主マスター』は私の方である。

 私よりも偉そうなため、えて『店長』とした。


 リスクを考えて大胆な行動を起こせないのが、元日本人たる所以ゆえんなのかもしれない。


「そう? 気に入ってくれて良かったわ♪」


 と私は店長に微笑ほほえむ。

 正直なところ、花屋やケーキ屋も捨てがたいのは事実だ。


 『モモンガ店長のケーキ屋』など、普通にありではないだろうか?

 取りえず、店名は『世界樹喫茶』とした。


 特に文句をいう人物もいないだろう。

 また、ここまで来るのに結構な苦労があった。


 『〈世界樹ユグドラシル〉を操作できる』といっても、家を建てられるワケではない。

 最初は幹に穴を開け、樹洞じゅどうのようなモノを作ることから始めた。


 椅子イス食卓テーブルも準備してみたが、所詮は木である。

 窓や寝台ベッドを設置することで、ようやく部屋っぽくなった。


 だが、窓帷カーテン絨毯カーペットもないので、人を呼べる感じではない。

 子供の秘密基地にしては上等――という程度だ。


 ためしに階段を作り、二階建てにしてみたのだが『広くなった』という感想しかない。ワクワクしたのは最初だけだった。


 気持ちを切り替え、食器類を作ってはみたのだが――

 これも木なので『なにか違う』という感じしかしない。


 私の目指す喫茶店には程遠いようだ。

 あれこれ試行錯誤していると、霊鳥シムルグの卵が羽化した。


 羽化したといっても、卵が割れたワケではない。

 卵が一際ひときわ、強い輝きを放ち、人の姿になったのだ。


 元気な男の子である。私は『烈風アウル』と命名した。

 これには文字通り、二つの意味を持たせている。


 ひとつは強い風となり『何処どこまでも飛んでいけますように』という願いを込めた。

 もうひとつは『暗い夜でも迷うことなく飛べますように』という思いからだ。


 かなり私の趣味が入っている名前だが、ここは日本ではない。

 少しくらい変わった名前でも、問題はないだろう。


 それよりもおどろいたのは成長の速度である。

 最初は幼い子供だったのだが、またたく間に大きくなった。


 身に付けている衣服まで一緒に変わるのだから、ある意味、便利だ。

 今では私の背を追い越し、高校生くらいの見た目になってしまった。


 その所為せいか、私を妹のようにあつかうのはめて欲しい。

 最近は新しい能力に目覚めたようで、そこら辺を飛び回っている。


 霊鳥シムルグの時には無かった能力なので、私の『魂の欠片』を持っている影響かもしれない。身体からだの成長も能力の獲得に関係していると推測される。


 新しい能力と言えば、私にも出来ることが増えた。

 〈世界樹ユグドラシル〉の中には過去に5度、滅びてしまった世界の記憶が埋もれている。


 その記憶を引き出すことが可能であることが分かった。

 お店の家具や食器も〈世界樹ユグドラシル〉の記憶から引き出したモノである。


 お陰でお店らしくすることが出来た。

 なにはともあれ、烈風アウルが戻ってきたら一緒にお祝いをしよう。


 世界樹喫茶の開店記念である。


(そうだ! 音楽が足りない♪)


 私は両手をパンッと合わせると、お店に合う曲を〈世界樹ユグドラシル〉の記憶から探した。



 ◆◇◆◇◆



 ドッキン☆ モエモエ♡ ズッキュ~ン♪

 ドッキン☆ モエモエ♡ ズッキュ~ン♪


 キミのハートを狙い撃ち♪

 可愛い笑顔でお出迎え♪


 上品よりも可愛さよ♪

 甘い笑顔でいやしてあげる♪


 可愛さ振り切るコーデも見てね♪

 アナタのハートを狙い撃ち♪


 ドッキン☆ モエモエ♡ ズッキュ~ン♪

 ドッキン☆ モエモエ♡ ズッキュ~ン♪


 今、舞台の上ではニンスィキルを筆頭に九人の歌姫が拡声器ハンドマイク片手に可愛い衣装で歌い、踊っている。


 そう、彼女たちは『神に選ばれしディヴァイン乙女アイドル』。

 ここは、その演奏ライブ会場だ。


 古き神々に再び祈りを捧げる儀式――略して『ディヴライブ』。

 九人の承認欲求怪物モンスター――


(じゃなかった……)


 この女神ラムダ罪から救済プロデュースした奇跡の九人(という触れ込み)である。


 現世(のゲーム)では幾人いくにんもの少年少女ゲームキャラたちをトップアイドルへと育成した私の手腕をここで生かすことになるとは思ってもいなかった。


 異世界で『ゲーム知識が役に立つ』というのは本当だったらしい。

 あの後――烈風アウル月山ウルサスを迎えに行ってもらっている間――私はニンクルラの妹であるニンスィキルと会っていた。


 彼女と結託した神官も一緒に、烈風アウルが捕まえてくれていたのだ。

 烈風アウルが遅れた理由でもあるのだが、結果として探す手間がはぶけた。


 しかし、厄介やっかい烈風アウルにニンスィキルたちの捕物とりものをさせることで時間を作り出し『水蛇みずちが私たちに接触した』と考えるのであれば素直に喜べない。


 えて、こちらに情報を流すことで、私たちの動きを牽制けんせいする作戦なのだろう。

 ニンクルラを生贄いけにえにすることを選んでいた場合、私たちのみとなる。


 彼女がこの国の王へとつぎ、女王となることが世界の救済のためには必要なことだ。


 ニンクルラの命と引き換えに、この国が海に沈むのを回避することは出来るが、妹のニンスィキルが王の花嫁となり、国の衰退すいたいが進んでしまう。


 〈錬金術アルケミー〉の発展が百年遅れ、世界の救済が難しくなる。

 だが、ニンクルラを助けることを選んだ場合、この国が海に沈む。


 それこそ、世界の救済には致命的な出来事ダメージとなってしまうだろう。

 よって、私は『二人とも助ける』ことにした。


 私も今までの旅で、少しは学習したのだ。

 まずはニンスィキルを一人だけ呼び出し、説得をこころみる。

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