第12話(2)企画案検討

「お疲れ様です。アンジェラ先生」


「う、う~ん……」


 アンジェラさんが腕を組む。


「どうかされましたか?」


「い、いや、その……呼び名っていうか……」


「呼び名?」


「先生っていうの、いまだに慣れないっすね……」


 アンジェラさんが鼻の頭をポリポリと掻く。


「とはいえ、もう立派なベストセラー作家さんなのですから……」


「実感が湧かないっすね……」


 私の言葉にアンジェラさんは苦笑しながら首を傾げる。


「いやいや、書店に並ぶ本も軒並み売り切れですよ!」


「そうなんすか?」


「ええ!」


「ああ、それは良かったっす……」


「本当に良かったです」


「それで……今日はなんすか? すごい立派な建物ですけど……」


 アンジェラさんが落ち着かないように周囲を見回す。今、私たちはこの国でも有数の大会社のオフィスにお邪魔している。


「先生の作品について様々なコラボ企画が持ち上がっています!」


「コラボ? なんすか、それ?」


 アンジェラさんが尋ねてくる。


「コラボとはコラボレーションの略です」


「いや、そのコラボレーションが分からないっす……」


 アンジェラさんが戸惑いを見せる。


「なんといいますか……『協力する』といったような意味です」


「協力する……」


「ええ、こちらの会社も含め、非常に多くの会社がコラボを申し出て下さいまして……」


「へえ……」


「今回はそのコラボ企画の案について、いくつか検討して頂こうかと……」


「あの、それって……」


「はい?」


「こっちに得はあるんすか?」


「もちろん、お金は発生しますよ」


 私は右手で小さな丸をつくる。アンジェラさんが手を振る。


「い、いや、それも大事ではあるんすけど……」


「え?」


「作品にとってはプラスになるのかなって……」


「それももちろんです!」


「は、はっきり言ったっすね……」


「コラボ企画がヒットすれば、作品の更なる盛り上がりに繋がります!」


「そ、そうっすか……」


「そうっす!」


「ふ~ん、それなら……」


 アンジェラさんが頷く。


「では、企画検討に移ってもよろしいでしょうか?」


「はいっす」


「それでは……」


 私は別の部屋から皿が何枚か乗ったプレートを持ってくる。皿の上には料理などが乗っている。アンジェラさんが目を丸くする。


「こ、これは、もしかして……」


「作中に出てくる、料理やお菓子を再現してもらいました!」


「ええっ⁉」


「どうです? イメージに近いんじゃないですか?」


「いやいや、ほとんどそのままっすよ!」


「いかがでしょうか?」


「すごいっす! 創作料理みたいなもんだったのに……今こうして現実に存在している!」


 アンジェラさんが両手で皿を指し示す。尻尾も揺れる。


「これなら作品を読んだファンの方々にも喜んでもらえるかなと……」


「いや、それはもう! きっと喜んでくれるっすよ!」


「それでは……」


 私は皿を指し示す。アンジェラさんが首を捻る。


「え? なんすか?」


「味の方を……」


「えっ⁉ 食べていいんすか⁉」


「ええ、今日は試食もしてもらおうと思いましたから……」


「うわ~……」


「さあ、お好きなものからどうぞ」


 私が促す。


「じゃ、じゃあ、まずこれを……」


「どうですか?」


「美味いっす!」


「どんどんお食べ下さい」


「じゃあ、これも……美味い! あれは……美味い! 美味い!」


 アンジェラさんが満足そうな表情を浮かべる。私は頷く。


「ご満足いただけたようでなによりです……」


「いやあ~良かったっす」


「では、このまま開発を進めてもよろしいでしょうか?」


「ええ、構わないっす!」


「ありがとうございます。それでは続いて……」


「おお、他にもあるんすね!」


「……これはどうでしょう?」


「かっこいいっすね!」


「……これはいかかでしょう?」


「かわいいっすね!」


「……これは?」


「良い感じっす!」


 私は様々なコラボ企画案を伝える。幸いにして、アンジェラさんからはいずれも好反応をいただくことが出来た。


「それでは……」


「まだあるんすね!」


「これが今回最後です……こちらです」


 私が別の部屋から持ってくる。アンジェラさんが怪訝な顔になる。


「こ、これは?」


「抱き枕です」


「だ、抱き枕⁉」


「ええ、かわいいモンスターの絵が描かれた抱き枕。まるでそのモンスターと一緒に寝ているかのような気持ちになります」


「う~む……」


 アンジェラさんが枕をつつく。表情は渋い。マズい、さすがに攻め過ぎたか?


「あ、あの……」


「……これは羊毛っすね?」


「は、はい……」


「これはフェンリルっすよね? ならば、フェンリルの毛を使うべきだと思うんすよ」


「えっ⁉ い、いや、しかし……」


「そういうところも徹底していないと、ファンの方は醒めてしまうと思うんすよね」


「わ、分かりました……先方に伝えます……」


 こ、こだわりが強い……。いや、これがヒットに繋がるなら……。私はうんうんと頷く。

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