第2話(4)獣人の疑問

「どうかしたっすか?」


「アンジェラさん……」


「はい?」


「貴女しか書けない話を紡ぐべきです!」


「ええっ⁉」


「貴女にしか出来ないことです!」


「オ、オレにしか出来ないこと……」


 アンジェラさんは首を傾げる。


「思い付きませんか?」


「いやあ、そう言われても……」


「先ほど、私がフェイクリルに散々追いかけまわされたという話をしたとき、貴女はこのようにおっしゃいました……」


「え?」


「……でも、あの狼も結構かわいいところあるんすけどね。よく分かっていないだけっすよ……とね」


「そ、それが何か?」


「貴女は獣人という御種族です」


「は、はい……」


 アンジェラさんは何を今更という表情になる。私は両手を広げる。


「つまり、人でもあり、獣でもあるということ……」


「は、はあ……」


「貴女は双方にとって良き理解者なのです」


「!」


「貴女ならではの立場を活かした小説が書けるかと思います」


「オレならではの立場を活かした……?」


「そうです」


「ま、まだ、よく分からないっす……」


「分かりませんか?」


「え、ええ……」


「例えばですが、人と……」


 私は右手を掲げる。


「はい」


「モンスター……」


 私は次に左手を掲げる。


「は、はい」


「これを……一つにする!」


「‼」


 私は掲げた両手を合わせる。アンジェラさんが驚く。


「……後は分かりますね」


「い、いや、分かんないっすよ! 人とモンスターが衝突したみたいじゃないっすか⁉」


「……『擬人化』です」


「え?」


「モンスターを擬人化するんで!す」


「え、ええ?」


「全員美少女です」


「び、美少女⁉」


「タイトルは……ずばり『モンむすめ。』!」


 私は紙にでかでかと書いたタイトルをアンジェラさんに見せます。


「モ、モン娘……」


「そうです」


「……色々と気になることがあるんすけど……」


「なんでしょう」


「この『゜』はいるんですか?」


「いります」


「いるんですか⁉」


「むしろ一番重要です」


「い、一番重要⁉」


「全員女じゃないと駄目なんすか?」


「男が混ざるとどっちつかずになってしまう恐れがあります。ここは美少女好きにターゲットを絞るべきです」


「そ、そうっすか……」


「ご理解頂けましたか?」


「あの……一番気になるのが……」


「はい?」


「これ、オレっすよね……?」


 アンジェラさんが自分の姿を指し示す。私は頭を抑えながら声を上げる。


「……あ~」


「い、いや、あ~じゃなくて! これは別に珍しくないんじゃないすか⁉」


「アンジェラさんカワイイから良いじゃないですか」


「カ、カワイイ⁉ い、いや、自分に近いような存在を書くのはどうしてもなんかこう……抵抗があるというか……!」


「ふむ……ではこうしましょう」


「ど、どうするんですか?」


「発想の転換です」


 私は広げた手のひらをひっくり返す。


「発想の転換⁉」


「人をモンスター化するのです」


「ええっ⁉」


「つまり『擬モン化』です!」


「ぎ、擬モン化……?」


「分かりますね?」


「い、いや、さっぱり分からないっす!」


 アンジェラさんが首をブンブンと左右に振る。


「凛々しい勇者は雄々しいドラゴンにするとか……」


「はい……」


「美しい女騎士は毛並みの艶やかなユニコーンにするとか……」


「はあ……」


「そういう感じでよろしくお願い出来ますか?」


「え、えっと、ちょっと待って下さいっす!」


「まだ擬モン化について疑問がありますか?」


「なにちょっと上手いこと言っているんすか! あるっす! 疑問!」


「なにか?」


「モンスター化して何をすれば良いんすか⁉」


「それこそあれですよ」


「あれ?」


「戦うのです!」


 私はビシっとアンジェラさんを指差す。


「戦う⁉」


「ええ」


「ど、どうやって……?」


「まあ、シンプルに戦闘でも良いと思いますが……」


「戦闘……」


「爽やかにレースでも良いかなと。誰が一番速いかを決めるレースを行うとか……」


「! ドラゴンやユニコーンの走るレース……上手くやればスポ根要素も盛り込めるかもしれないっすね……分かったっす、それでちょっと考えてみるっす」


「よろしくお願いします」


 私は頭を下げる。打ち合わせはなんとかうまくいったようだ。

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