思えば思わるるかもしれないけど

小林六話

第1恋

 人生、何があるかわからない。自分のいた世界がこんなにも小さい物だなんて気づかなかった。変化は時に自分に恐怖や緊張を与えるけれども、この変化は不思議と怖くなかった。



 進級すると必ず行われるイベント、それは委員会、係決めだ。

「確か去年は書記とかだったらしいよ」

「委員会だと環境美化だったらしいよ。そんな会話を聞いたらしい」

「えぇ!環境美化だったら望みあるかも!」

「競争率高いと思うよぉ!でも、一緒になりたいよね!」

 ある一人の男子高校生を見つめながら少女達はひそひそと話し始めた。その瞳はキラキラしており、恋と憧れが混ざったような色をしていた。そんな彼女達の視線を浴びる男子高校生、成瀬なるせ駿斗はやとは頬杖をつきながら、黒板の文字を見つめていた。陸上部に所属している駿斗はその爽やかな好青年のような見た目から男女ともに人気のある生徒だった。誰もが彼と仲良くなろうと試み、同じ委員会になろうと情報を集めていたため、駿斗が過去に選んだ係や以前話していた希望する委員会の情報が駿斗の知らない所で出回っていた。

「被らないといいけど」

 そんな状況の中、駿斗は賭けていた。今回の委員会、係決めで第一希望が通らなければ彼の望む今後の道は暗い。

「たぶん、図書委員会だよな」

 駿斗は誰にも見つからないように視線を一人の女子生徒に移した。友達と嬉しそうに話をしている眼鏡をかけた女子生徒の笑顔を見て、駿斗はよりいっそう覚悟を強めた。

「絶対に被るわけにはいかん」


《作者コメント》

 どうも、新作でございます。これも短い話ですがぜひ楽しんでください。あることわざをテーマに書いたのですが、私なりの解釈でチャレンジしてみました。

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