ヴァンパイア~世界樹の英雄譚~(旧名:ヴァンパイア・エンパイア英雄譚)

クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ

吸血連合、世界樹篇

第1話 少年シドラ

その世界では、「吸血族ヴァンパイア」と人間が共存――していなかった。共存は、単なる理想論にすぎなかった。古くから伝わる幾つもの伝承が人間たちに誤解を招き、吸血族との軋轢が生まれた。


とある町の一角、吸血族ヴァンパイアたちの住まうスラム街に不思議な男の子が生まれた。

男の子は外見は人間だったが、耳だけは吸血族の特徴であるように尖っていた。

その男の子は人間と吸血族の共存の橋渡しになるかと期待されていた。

しかし、彼らには悲劇が訪れた。無実の罪を着せられた多くの同胞が殺され、幼い者たちだけが残った。これは、少年が8歳になった頃のことだった。

それから彼は自らをエルフだと偽り、働いてはその金で食料を買い、町で見かけた同胞たちにこっそり渡していた。



そんな日々が8年ほど続き、16歳になった僕は冒険者デビューを果たした。もちろん、目的は「人間と吸血族の共存の実現」だった。僕は人間にも親しい人もいるし、8年前から街の一角にあるとあるバーで働いていたおかげでお金もある程度あったし、装備をそろえることは難しくなかった。


「そこの君!俺たちとパーティー、組んでみないか?」

「僕、ですか?」

「そうそう。俺たちのパーティーランクはCだ。だから心配することはないぞ」

「いえ、結構ですよ」

「は?パーティーランクがCもあれば十分だろ?」

「それでも、誰かを傷つけたくはないので」

「?」


5年前の自分が犯した大罪が頭をよぎる。どうしても、まだ誰かに近づくことに遠慮してしまう。


そして僕は案件クエストを受けることにした。最初だったけど、『初夏の気温変化の影響で興奮し、暴れているハイワームの討伐 推奨戦力:ランクA2以上の単独冒険者またはパーティーランクC4以上のパーティー』を選んだ。


一応、デビューしてすぐで事実上ランクE1だったから、ランクS1の護衛が付き添いで来ることになった。傷つけないように気をちけないと…。


「お前、いくらステータスがA4同等だからって調子乗ってレベル高い案件受けるなよ。もしお前が死んだら俺がギルドに合わせる顔がねえからな。」

「大丈夫です。僕だって馬鹿じゃないですから勝算の無い案件は受けないですよ」

「んだと!?いい加減舐めてるとブチ殺すぞ!!」

「この鋭い犬歯、見えますか?実は僕…」

「ヴァ、吸血族ヴァンパイア!?が、害虫め!!人間様に紛れていようなんて考えやがって…」

「僕は人間の血を吸ったり襲ったりするつもりもないですし、むしろ共存したいって考えてるんですよ。だから、そう警戒しないでください」

「生意気な…」



目的地に着いたが…。


「吸血族の気配がする…。まさか、化けてたりするんだろ」

「確かに、エルフかどうかって言われるとそうでもない。それに、エルフはあんなに犬歯は鋭くない」

「種族を偽るようなヤツに受けさせるクエストは無い!」


吸血族であることがバレるや否や、僕を追い返そうという声が聞こえ始めた。


「待ってください。必ずクエストは達成すると誓います。どうか…」


そして僕は異世界の芸、ドゲザをしてみせた。


「異世界の芸をしたところで無駄だ!さっさと帰りな!!」

「そこの冒険者も仲間なんだろ?人間様に歯向かうならお前も同じだぞ」


「クソ…。おい、お前はあんな奴らに好き放題言われていいのかよ!?」

「好きに言わせておけばいいじゃないですか。それより、早くクエストを達成して帰りましょう」

「本当にお前は生意気だな。まぁいい。さっさと出てってやろう」

「はい」



洞窟の最果てまではとても距離があった。その途中でも容赦なくモンスターたちは襲いかかってきたけど、僕はそれをものともせずに撃破、収集できた。まさか魔物がここまで弱いとは…。

そして最深部に来ると、そこには1匹の太いワームがいた。


「これ、本当に倒せるんですかね。まあ、物は試しってことで」

「つべこべ言わずにさっさと討伐しろ」

「わ、分かりました。剣技『青の薔薇』!」


僕はできるだけ素早くワームとの間合いをすぐに詰め、一撃見舞った。

しかし、上級なだけあって一筋縄ではいかず、その鋼皮が攻撃をはねた。


「やっぱり一撃じゃダメか…」


しかし、確かにそこには焦げたような跡ができていた。


「そうだ!」


僕は思いついた。その場所に攻撃を加え続けていればいずれ焼き斬れるのではないか、と。

そして僕はワームの尾と剣を交えながらも少しずつそこを斬っていった。

何分経っただろうか。息の切れてきた頃、ワームは一刀両断になった。


「お、終わった…。何とかやりました」

「ら、ランクE1なのに上級猛虫ハイワーム撃破だと…。すげぇな」

「いえ、見てくれている人がいたから頑張れたんですよ。ありがとうございます」

「お、俺は何もしてねぇよ。これはお前の実力だ」

「吸血族はそもそも人間とは能力の差が…」

「そうだった!?お前は吸血族だったな…。まぁ、町の連中には秘密にしといてやる」

「秘密にするんですか?」

「何というか、お前みたいにせっかく強い奴に先に死なれちゃ困るからな」

「本当に何から何までありがとうございます」

「いいってことよ。俺はもう7年くらい冒険者をやってる。この先も困ったことがあったら頼ってくれ」

「はい!」



僕はそのワームの死骸を引きずりながら街へ帰り、それを換金所に出した。

「討伐おめでとうございます。結果はこの死骸の鑑定結果と一緒にご報告させていただきます」


そして僕と護衛の人は街に帰った。


「おめでとうございます、シドラさん。ランクE1からC1に昇格しました。こちら、報酬とワームの買い取り額の合計で28000ベテルになります」


想定外の結果に、僕は唖然とした。もしかして、かなり異質なことだった?


「何!?初案件でランクC1になった冒険者だと!?」

「それは本当か!?」


聞こえた言葉に驚いた冒険者の人たちが一斉に駆け寄ってきた。どうか、どうか悪いことが起きませんように…。


「はい。そう、みたいです」


そしてその噂はすぐに町中に広まってしまった。でも、何故だかその夜に僕を祝う宴が開かれることになった。



ギルドの酒場には、大勢の冒険者が集まっていた。


「どうも、シドラ・コエクシストです。今日は僕の為に宴会を開いていただきありがとうございます」

「いいんだ。俺たちは何かと理由つけて宴会したいだけだからよぉ。なぁ!!」

「ああ。宴会ってのは俺たち冒険者には欠かせねぇもんだよ」

「新人に乾杯!!!」


そして、ギルドの酒場には大勢の乾杯の声が響いた。

僕は、これからもこんな風に人間たちと仲を深めていけたら、と思った。


続く 次回、吸血族の少女と拷問冒険者

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