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 日記ではない、だいぶ昔の子供時代に経験した不思議なことを思い出した。

 これは怪談みたいにちゃんとした恐怖体験ではないので、特に面白いものではない。


 僕がまだ小学校低学年くらいのときだ。

 当時、自室はあったけども一人で寝るのが怖くて母と寝てた頃の話。たぶん暑さも和らいできた秋頃だったように思う。なんとなく寝付けなくて布団の中でゴロゴロしてた夜中、道路に面した家だったので夜でも自動車の走行音はたまに聞こえるような静かさ。とはいっても、もちろん壁を隔てているので、ぼやけた感じで音が伝わってくる感じだ。

 その夜はなぜかシン……と静まり返っていて、自動車の気配すらない不思議な静寂だった。寝付けないまま目をつぶってしばらくぼんやりしてると、外から「カツーーーン……」というなんとも甲高い音が響いてきたのを覚えている。


 変な音だった。


 カツーーーン……


 道路はアスファルトなので、音は少なからず吸収されるはずなのに、その音だけまるで狭いトンネルの中を何度も反響しているように音がいつまでも響いていたのだ。


 カツーーーン……

 カツーーーン…………

 なんていうのか、下駄を思い切り踏み鳴らしているような、軽い木片で何か叩いているような、そんな木の質感がある甲高い音が一定の間隔で鳴らされ続けていた。

 正直、割りと大きめの残響だったので、母も気付いて起きてきてもいいくらいだったのだが、普通にスヤスヤ眠っていたのをよく覚えている。


 カツーーーン……

 カツーーーン…………

 カツーーーン………………

 もうひとつ不思議だったのが、仮に誰かが何かを鳴らしていたのなら、道路なので歩行者と一緒に音もいずれ通り過ぎていくだろうはずだ。なのに、一定の感覚で同じ場所から妙に反響しているような、誰も歩いていないような変な響き方だった。


 それから、しばらく(たぶん本当に10分以上)変に反響していた音も気付けば終わっていて、車の往来する音が戻ってきたあたりで、いつの間にか寝てしまった僕だった。

 明くる日に、母に確認しても寝てたから気付かなかったと言われ「寝ぼけてたんでしょ」と片付けられたが、未だにあのときのことをふと思い出してしまうのだ。

 そして、ずっと記憶の中にある、あの日の夜に反響していた「カツーーーン……」という木片を叩くような音が忘れられないのである。

 実体験なので、これ以上のモノは無いし、オチらしいオチは無い。

 でも、あれはいったい、なんだったのだろうか。


おわり


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