【超短編】本音を言わない相手

茄子色ミヤビ

【超短編】本音を言わない相手

「正直ぜんぜん好きじゃないんだけどさ~OKしといて、そんなん言えないじゃん?」

 それは失礼じゃないか?と言いたいものだが、俺はいつものようにベッドの上で手足をだらしなく広げ、無表情のまま話を聞くしかない。

「でもほら見てよ。顔も悪くなくて、一応はうちの高校のバスケ部のレギュラーだから運動神経も良くってさぁ~」

 コイツとは何年の付き合いになるのだろうか?

 まだこの部屋を与えられる前の頃だから、10年以上の付き合いになるんだろうか。

 親父さんがゲームセンターで俺をつまみ上げ、それとは別に買ってきた包装紙を良い感じに包み「買ってきたぞ!」と、俺が渡されてからの付き合いだ。

 親父さんよ、その事実はとっくにバレてるぞ?

「ねぇ聞いてる?」

 聞いている。

 そしてお前から聞かされることは、大概覚えている。

「周りからさ~付き合ってるわけだし苗字で呼びあうのは変だって言われてるんだけど…そういうの正直面倒くさいよね。別に呼び方なんてどうでも良くない?」

 そうだな。

 俺にクマ太郎という名前をつけるあたり、名前自体に興味がないんだろう。

 最近ではクマ太と呼ぶし。

 郎をサボるな、郎を。

「まぁ~そのうちあだ名とか付けてけばいいのかな?クマ太みたいに」

 おっと、俺のそれは愛称だったのか。失敬。


─ピンポーン

 

「あ、もうキシモトくん来ちゃった!クマ太ごめん!!!」

 予感はしていたが、やはり俺のことを布団の中に突っ込んで部屋を出て行きやがった。

 バタバタと玄関まで走っていく音がするが…大丈夫か?

 あ、コケた。

 大声で悶えるな。

 キシモトくんに聞こえるぞ。

 馬鹿だあいつ。

 それにしても別に16歳の女の子の部屋にぬいぐるみがあってもいいだろう。

 先週クリーニングから帰ってきた俺は信じられないくらい綺麗になっていただろう?

 まぁ、これが思春期ってやつか…これから来るキシモトとかいうやつに俺を紹介してくれないだろうなぁ…。

 しかしあいつも気付かない内に成長したもんだ。

 素っ裸で俺を振り回していたあいつが、彼氏と一緒に勉強するだけだってのに、家の隅から隅まで掃除して、雑誌を読んで服を選んでいるんだからな。

 俺は10年前から相変わらずだが、あいつは知らない内に大きくなったんだな。


 しかし少しだけワガママを言わせてもらえるのなら…今後とも本音を言わない相手は俺だけにして欲しいもんだな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【超短編】本音を言わない相手 茄子色ミヤビ @aosun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る