第8話 七

 亜瑚が切なく悠杜の名を呼んだ。悠杜は、かまわずに亜瑚の身体を味わう。部屋の中には、亜瑚の荒い息遣いと快楽の声が響いている。

 悠杜は、自分の欲望を満たすために亜瑚を抱く。それはまるで、心の奥底に秘めた歪んだ想いを忘れようとしているかのようでもあった。

 だが、欲望が満たされることは決してなく、さらなる渇きに襲われる。亜瑚を抱けば、確かに肉体の欲求は満たされる。だが、それに比例するかのように、心の中にある欲望は少しずつ肥大していった。

「はると……、おね…が…い」

 亜瑚は、悠杜を求めて腕を伸ばす。求めに答えるように、悠杜は亜瑚の中に侵入していった。亜瑚の口から、喜びと快楽が入り混じったような声が発せられる。悠杜をもっと感じようとするかのように、伸ばした腕をその身体に回した。

 亜瑚を抱きながらも、悠杜の心の中では別の少女の姿が浮かび上がる。それは、泣き叫び、助けを求める莉々香の姿だ。

 親友だった高志と妹が付き合いだした日の夜、悠杜は夢の中で莉々香を陵辱していた。涙を浮かべ、懇願する妹を無理やり抱いた。

 妹が欲しいと思った。自分のものにしたいそう願った。そして悠杜は、無意識に閉じ込めていた感情に気づいてしまったのだ。

 その日から、悠杜は家で眠ることが出来ない。夢の快楽に溺れてしまい、自分の気持ちを抑えられなくなるのが怖かった。すべてを忘れようと亜瑚を抱き、そのまま夢も見ないぐらいの深い眠りに付く。

 亜瑚が繰り返し、悠杜の名前を呼ぶ。限界が近づいているのが分かる。悠杜は、亜瑚の顔を見た。亜瑚も、夢の中の妹も、同じように涙を流し、悠杜を呼ぶ。だが、表情はまったく違っており、片方は喜びと快楽、片方は絶望と恐怖に彩られている。

 悠杜は、泣き叫びながら自分に許しを請う妹を、思い浮かべた。そして、その姿に激しい快楽を覚える。

 亜瑚が切ない声で悠杜の名を口した。同時に体が弓形にしなり、小刻みに震える。すぐに、悠杜も歪んだ欲望を亜瑚の中に吐き出した。


 日が沈み、辺りが暗くなる中、悠杜は自宅の前でバイクを止めた。ヘルメットを取り、バイクから降りる。

 門を開け、バイクを押しながら中へ入ろうとした。いつもと違い、玄関先が暗いことに気がつく。家の中も暗く、人がいる気配がない。

 バイクのスタンドを立て、悠杜は腕時計を見た。時計の針は七時十四分を指していた。いつもなら、莉々香が家にいる時間だ。少しの間、悠杜はその場に立ち尽くす。しかし、この場で考え込んでいても答えが出るわけでもなく、悠杜はバイクのスタンドを上げると、ガレージまで押していった。

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