第3章 合掌造りの里五箇山と硝石の謎。

一杯目 本日のお薦め。

「おっ。やってるね、先生」


 いつもの居酒屋で呑んでいると、あの男がやって来た。


「今からか、須佐」

「ああ。仕事が片付かなくてね。監督のボケが――」

「何にします?」


 店の親父が聞いてきた。


生大ナマだい!」

「はい、まいど!」


 この男、ビールは大しか頼まない。理由を聞くと、「どうせ呑んじゃうから」だそうである。


「さて、ビールを待ってる間に作戦決めちゃおうか?」

「何の作戦だ?」

「本日のお薦めさ。お題を決めないとね」


 こいつと呑む時は大概歴史だの、伝説だのの話になる。二人共歴史馬鹿なのだ。


「そういや佐渡金山が世界文化遺産に推薦されたな」


 私は暫く前に見たニュースを思い出した。


「佐渡か――。悪かないけど、今日の気分には合わないかな」

「なら、何にする?」


 須佐はちょっと考えると、ニヤリと微笑んだ。


きんよりはさあ。火薬の方がヤバそうじゃない。きな臭くてさ」

「火薬だって?」

「そう。戦国日本の火薬庫についてってのはどうだい?」

「そりゃこうばしくて旨そう・・・だ」

「生大お待ちー!」


 須佐のビールが来た所でグラスを合わせる。


「えー、本日は世界文化遺産の里、五箇山ごかやまと硝石のお造りとなりま〜す」


 須佐のアナウンスで、その夜の謎語りが始まった。

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