七杯目 クシナダヒメは元祖ロリータ。

 クシナダヒメは古事記では「櫛名田比売」と表すが、日本書紀では「奇稲田姫」となる。


 書紀は漢文表記なので大和言葉の「音」と「意味」を伝えるべく翻訳してあるとすれば、「奇稲田姫」の方に本来の意味が込められていそうである。


「『し稲田の姫』つまり『霊妙な田んぼの姫』という名のを娶ったと」

「スサノヲ氏は元祖『ロリコン』男爵でもありますな。ハハハ」


 須佐が下品に笑う。


「『奇稲田くしなだ』は鉄穴流しの結果田んぼということで決まりだね」

「ある意味『できちゃった婚』て訳だ。フハハ」


 こいつだいぶ出来上がってきたな。


 体裁よくいうならば、悪の穴師一派を退治しつつ段々畑を里に寄付した勇者様は、お姫様と幸せに暮らしました。めでたし、めでたしとなる。


「ダークサイドから眺めればだ。お盛んな同業者を闇討ちにして既得権益を分捕りつつ、産業廃棄物を里に押し付けて幼女を召し上げたっていうことよ」

「スサノヲ半端ねえな」


 須佐のまとめっぷりが容赦ない。そこまでいうかね。


「だって俺んち『須佐』なんだもん。ご先祖様の悪行から目をそらすわけにはいかんでしょ」


 そういう類のコンプレックスもあるのか。昔の話なので、許してもらおう。


「ほら、呑めよ」


 私は空いたグラスに熱燗を注いでやった。

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