三杯目 大蛇の生態を考察する。

 鉄穴かんな流しのやり方についておさらいしておこう。


 砂鉄を含む土砂を山の上から水と共に流す。水の勢いで土砂の塊を粉砕しつつ水流は斜面を下り、途中に設けたダムで砂鉄を含む土砂とただの土に分離される。比重の違いを利用した処理である。


 蒸留精製の仕組みのようにこの過程を下流に向けて何度も繰り返すと、最後には砂鉄だけを取り出すことができる。これがたたら製鉄の原料となる。


 鉄穴流しで砂鉄を採集する人々は、「鉄穴かんな師」と呼ばれていた。これもまた穴師の一部である。


 穴師の中には当然ながらいろいろな職種、役割分担が存在して一つの社会を構成していた。鉱山開発をする山師、狩猟をする猟師、炭焼人、木地師(木工職人)など多様な職能集団を総合して穴師と呼んだのだ。


 それはすなわち「山の民」。海彦山彦でいう山彦の方に当たる。海彦山彦というのも不思議かつ含蓄の多い話なのであるが、それはまた後日の肴としよう。


 穴師すなわち山人と里人の関係に話を戻そう。


 上流にいる山人が鉄穴流しで水を放出すれば、たちまち里は水浸しになる。下手をすると田畑を流され、作物が全滅する。里人にとっては大災害だ。


 そんな連中が部族として徒党を組んでいたら、里人は落ち着いて生活ができない。しかも山人は製鉄や冶金の技術まで持っているので桁違いの武力を持っている。弓に長けた狩人を部族の一部としているのだから、軍事力的に山人の圧勝である。


 荒っぽい連中は里を襲って物資を略奪したり、女を奪ったりしただろう。八岐大蛇に譬えてもおかしくない脅威であったのだ。

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