二杯目 安倍晴明を肴にしよう。

 須佐はまた日本酒を一舐めすると、問わず語りに話し出した。


「安倍晴明ってのは死んだあと、晴明神社に祀られて神格扱いされているだろ?

 裏を返せば、その時代の人が祟りを恐れていたってことさ」


 祟りを恐れるが故に神として祀る。社とは荒ぶる神を封印する為の装置でもあるのだ。


「元々阿倍氏ってのは天皇家から分かれて臣下となったとされる、古い一族な訳だ。どうも晴明の頃に『安倍』という表記に改姓したようだがね。晴明自身も『晴明』から『清明』に改名しているんで、何かきっかけがあったのかもしれないね。そこの事情は置いておくとしようや」


「晴明の出自ってのも、分かったようで分からない。大阪は阿倍野生まれだという説もあれば、奈良の桜井だという話もある。奈良桜井なんて土師はじ氏の本場で、古墳文化の中心地だ。古代の土木技術者であり、鉱山技術者であった土師氏が陰陽師安倍氏の祖先だったっていう構図も面白いがね」


「晴明に関する言い伝えのあれこれを考えると、大阪阿倍野ってのはありそうな線じゃないかな」


「晴明の母親がね、狐だったっていう伝説があるんだよ」


 須佐はコップ酒の表面に立つ波を、興味深げに見詰めながら言った。

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