短編こばなし

@romancesk

第1話 お隣さん

『お隣さん』

(六畳の子供部屋。少女が二人、部屋の中央にいて話をしている。)


マイ「ミキちゃん、今日もそのにんぎょうと遊んでるの?」

ミキ「うん。」

マイ「こっちに来ていっしょに遊ぼうよ。」

ミキ「前にゆユキちゃんに怒られちゃったから。ねえ、豊岡?」

豊岡英治(ミキ、以下略)「うん。豊岡英治もそう思うよ。行ったら雰囲気ぶち壊しちゃうもん。一人で十分楽しく遊べるし。」

マイ「ミキちゃん、フランス人形に豊岡英治なんて渋い名前つけてるんだね・・・。ビックリした。中三にもなってフランス人形を使ってひとりおままごとをしていることにもビックリだけどさ。」

ミキ「一人じゃないよ。豊岡英治の他に、留美と、栄一と、昇と、よしがいるよ。」

マイ「そんなにたくさんいるの!?」

ミキ「豊岡英治は豊岡留美と夫婦で、豊岡栄一と夫婦に繋がりはなく、留美は二度結婚して家を出ていったが結婚生活がうまく行かずに出戻り。昇は留美の前の前の旦那との子供。よしは英治の母親で、よしの夫はよしが若い時に病気で亡くなっていて、よしが女手ひとつで英治と留美を育て上げました。」

マイ「複雑な家庭環境なんだね・・・。そして、全部可愛い女の子のフランス人形なんだ。」

ミキ「そしてこれは、ペットのラ・フランス。」

マイ「ミキちゃん、同じフランス人形何個持ってるの?」

ミキ「この他に、お隣りさんも住んでるんだけど、お隣さんとは昔から反りが合わなくて、時々気軽に相手の家に石を投げ合う関係性で、頻繁にお互いの窓が壊れているよ。」

マイ「どんな関係性なのよ、それ。どっちか引っ越せばいいのに。」

ミキ「石を投げ合って、より多くの窓が壊れたら、そっちが勝ちってことにして、終わったあとに合同でバーベキュー大会してる。」

マイ「仲が良いのか悪いのかよく分からない関係性ね・・・。その周辺の人たちに影響は無いんだ。」

ミキ「遠巻きに見ていて、意外と『今年も風物詩が始まったな~ハハハ。』くらいの感じで見てるよ。」

マイ「慣れてしまえば、そんなものなのかしらね。」

豊岡英治「我々も、近隣住民は巻き込まないよう、細心の注意を払っているよ。」

マイ「急に英治出てきたな。巻き込んだら警察沙汰だよ。」

ミキ「警察沙汰になったら2週に一回は出動することになっちゃう。」

マイ「そんな頻度で開催してるの?なんで、それで関係性が成り立っているの?」

ミキ「わかんない。大人の事情ってやつじゃない?」

マイ「便利な言葉だからって、それで全てが説明できると思うなよ?」

ミキ「マイちゃん、切れが悪いなあ。腕が鈍ったね。」

マイ「急にどうした?」

ミキ「それで、前に警察が来た時なんだけど。」

マイ「警察沙汰になってるのかよ。」

ミキ「警察は『前々回に比べて、ここの穴が小さく、破片が少ないですね。さては、投球フォームはフォークかな?』って笑いながら言ってて。それを聞いた栄一が『ははは、よくわかりましたね!さてはあなたの心のストライクゾーンに入っちゃったかな!?』って返してて、冷たい空気が流れてた。」

栄一「あれは渾身のギャグのつもりだったんだけどなあ。」

マイ「急に栄一出てきた。」

ミキ「あ、違う。これはラ・フランスだった。」

マイ「栄一じゃないんかい。」

ミキ「ちなみに、ラ・フランスは栄一が元々住んでいた家で飼っていたオウムで、栄一が寂しくないようにって一緒に引き取られたんだ。かれこれ50年くらい生きてるよ。」

マイ「濃すぎるなあ。」

ミキ「こっから話を拡げていきたいけど、うまくいかないから、ラ・フランスの腕でも左右に拡げとくか。」

マイ「ちょいちょい現実的な話を挟んでくるね。」

ユキ「ミキちゃん。」

マイ「あ、ユキちゃんだ。」

ミキ「ユキちゃん・・・。」

ユキ「この間は、ごめんね。ユキ、ちょっとやり過ぎたって反省してる。」

ミキ「ユキちゃん・・・。こちらこそ、ごめんね。中途半端な気持ちで臨んだりして。」

ユキ「これからも、ユキと遊んでくれる?」

ミキ「うん・・・。」

マイ「よかったね、仲直りか。」

ユキ「この間は、投球フォームがなってないとか、言いすぎちゃった。おかしいよね。ちゃんと窓は割れてたのにさ。」

ミキ「うん。投球フォームは確かに汚かったかもしれないけど、きれいに割れてたから、そこは許して欲しかったかな。」

マイ「えっと・・・お二人はどんな関係性で?」


ユキ&ミキ「『お隣さん』。」


(―暗転。)







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