カレーライス

カレーライス

　冷蔵庫を開けるとそこは茶国であった。意味がわからなくて30秒くらい固まる。ぷぅんとカレーの匂いが鼻をくすぐってようやく状況を理解した。つまり、昨日作ったカレーがこぼれたのだ。

　それを理解してなお私が固まっていると、ポタポタとカレーが冷蔵庫から垂れ始めてようやく布巾を取り出す。いや、やっぱ雑巾だな、とやっている間にまたボタボタ。

　泣きそうになりながら冷蔵庫のカレーをボウルにすくい取り、残りを雑巾で拭き取る。なんでこんなことをしなきゃいけないんだ。それはきっと私が適当にボウルを置いたせいだ。不安定だったのだろう。何かの拍子に落ちてしまったのだ。

　はあああぁ、と擬音がつきそうなほど深くため息をついた。キッチンはカレーの匂いで香ばしい、悪い意味で。換気扇を回したが、きっとこの匂いはこびりついて離れないだろう。ああ嫌だ。

　拭き取り終わってボウルからカレーを、残りを拭き取った雑巾と一緒にゴミ袋に流し込む。キュッと強く縛ってもう1枚のゴミ袋に突っ込んだ。こんなもの二度と開けてやるか。

　しかし床にカレーが少しだけ残っていた。その時私は疲れていたのだ。多分。カレーを拭いたからだと思う。そうでなければ、床に落ちたカレーを指で拭き取り、あまつさえそれを舐めるという真似などしなかったはずだ。なのに、

「あ、おいし……」

　2日目のカレーは美味いのである。私はしばらくキッチンの床に座っていた。なんだか少しおかしくて、ずっとクスクスと笑ってしまった。