v2.0.9 - 訪問イベント
グループ分けという辛い現実をなんとか乗り切り、その後は大きな事件もなく、時折ミントにちょっかいかけられながら平穏無事に放課後を迎えられた。
HRが終わり、帰り支度を始めたところで
「七橋さ~ん、ちょっと頼まれてくれないかな~?」
「何ですか?」
七橋さんが担任に呼ばれている。
担任の目線が俺のほうもチラッと見たので、これはおそらくクラス委員仕事っぽい。
どうやら俺も何かをやらされる事になるらしい。
ここは正しく社畜魂を発揮してひとまず座して待機。
「小堀田さんにこれ届けてほしくて~」
担任はまったくやる気の無さげな声でそう言って、七橋さんに封筒を一つ渡した。
まったくやる気のなさげな担任だが、情報Iの教科担任みたいな暑苦しさが無いだけ助かる。
こういうダラけた人からしか摂取出来ない栄養がある。
エネルギー消費が少なそうなので、多分SDGs的な観点から言うなら最優秀賞だと思うし。
人類が生き生きアクティブに働き遊び動き回るからエネルギーが必要なのであって、みんなもっとダラダラ適当に生きたら地球温暖化とか戦争とか止まると思う。知らんけど。
小堀田さん、というと……今日知ったばかりの例の不登校の子だよな。
七橋さんが受け取った封筒には「健康診断受診のお願い」という文字がちらりと見える。
なるほど、学校に一度も来てないということは、健康診断とか身体測定とかそういうのもやってない事になるのかな。
どこかのお医者さんに行って健康診断受けてきてください、とかそういう案内だろうか。
しかしこれくらいのものなら郵送でいいのでは……? と思ったのだけど、さすがにこのやる気のない担任とて、それくらいの疑問は想定済みだったらしい。
「小堀田さん、クラスのみんなとあまりお話ししたりしてないみたいだから~。これ渡すついでに少しお話ししてみてほしいなって~」
……なるほど。
やる気はないなりにきちんと生徒の事は見ているし、考えてもいるということか。
いや、もっと偉い人に言われて渋々やってそうな気もするが。
何にしても、そういうのってまず先生のお仕事では? と思わなくもないんですが。
しかしこの無気力先生が家庭訪問したところで何も変わる気はしないので、これが一番正しいやり方な気もする。
「小堀田さんのお家って……」
「住所それ~」
七橋さんの質問に、担任は封筒にプリントされたQRコードを指さした。
つられて目線がそちらに向いて、俺のARグラスがQRコードを読み取ってしまい、住所の冒頭らしき文字列と「この住所を地図で見る」「この住所をアドレス帳に追加」という文言が書かれた小窓が俺の視界にふわりと浮かんだ。
……いきなりそんなディープな個人情報晒してくるとか……ARグラス恐ろしい子。
というか、住所の載ったクラス名簿が配布されないこのご時世、個人情報をそんなホイホイ渡していいものなんだろうか?
ああでも、これを渡せるということは、小堀田さんに既に話は通ってるのかな?
意外にちゃんとやる事はやってたりするのだろうか。まったく謎な担任だ。
「用事とかあるなら今日じゃなくてもいいけどなるはやで~。御久仁君もよろしくね~」
「アッハイ」
担任は俺のほうに顔を向け、ひらひらと俺のほうに手を振りながら、だらけきった笑顔で言った。
ああ、やっぱり俺も一緒に行く事になってるんですね。
「っていうことみたい」
俺が聞き耳立てていたのは把握していたのだろう。
七橋さんはそう言いながら近づいてきて、
「御久仁君この後大丈夫? 私は今日なら大丈夫なんだけど」
「アッハイ」
予定と言えばせいぜい帰りに図書館に寄ろうかと思ってたくらいだ。
俺ごときモブに予定など、いつだって無い。
仮に何かあったとしても、主人公格の皆さんにイベントが起こったのなら、モブの予定など破棄されるのが世界の理というものですはい。
そんなわけで七橋さんと二人で、小堀田さんのお宅訪問という事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます