第30話 犯人確保
「どうしますか」
ウーに取り押さえられ、それでもなお必死に抵抗しているが、ウーの方が力は強いので、抜け出すことが出来ずにいた。
「一度、馬車に連れて帰る。ウー担げる?」
「はい、たやすいことです」
「よし、なら一度縄を巻いてそのままなるべく急ぎ足で街を抜けよう」
「分かりました」
僕の指示を受けて、手際よく拘束しそのまま自身のマントの中に隠す。そしてそのまま僕らは早歩きで街を抜け出した。
馬車に戻ると、皆が不思議そうな顔をして出迎えてくれた
「どうしたのですか、そんなに早くに戻ってきて」
「いや、一応犯人は捕まえたんだけどね」
僕の言葉が終わるや否や、ウーは背負っていた犯人を地面に降ろす。一応騒がれては面倒だったので、口に布を噛ませていたが、それだけは外してあげた。そうして初めて僕は彼女の全体像を見ることが出来た。特徴的な白髪に白い耳、そして背中にもかすかに白い毛が生えていた。背丈はウーより少し低いくらいで、見た目から推測する年齢は多分ウーとチセの間くらいだと思う。
「お前ら、私をどうする気だ」
「それを今から話し合うんだよ、フィリア」
僕は自身の鑑定スキルを使い、彼女の名前を探った。それと同時に彼女がウーとは違い白狼族であるということも頭に入れた。フィリアは拘束されてもなお、腰のナイフに手を伸ばそうとしていた。当然そこに手が届かないよう拘束しているため、意味のない行動であると言える。
「どうして、私の名前を。てかそれよりも早くこれを外せ」
「できるわけないでしょ。第一にあなたが昨日ご主人様から奪ったお金はどうしました?」
「ああ、あれならとっくに使ったよ」
予想はしていたが、こうも悪びれもせず言われると流石に心に来るものがある。しかしそれは何のために彼女をここまで連れてきたのかという事には一切関係のない話だ。
「さっきからいったい何の騒ぎだ~」
おそらくは荷台の奥の方で昼寝をしていたダラスがのっそりと出てきた。それと同時になぜかチマとポタも、彼女の脇からひょっこりと姿を現した。
「ああ、今街を騒がせていた強盗を捕まえた所なんだけど」
ダラスにここまでの大体の事情を説明すると、ダラスは寝癖で乱れた髪を掻きむしると一度奥に戻り彼女のメインウェポンである斧を取り出す。
「こいつ私に任せてもらおうか。なあ女同じ野盗同士仲良くしようぜ」
「下賤なお前と一緒にするな」
「話はついたな。てことで奴隷商人、酒と飯買ってこい」
「ダラスあなたご主人様を、こき使うとはずいぶんと偉くなったものですね」
確かにダラスとは主従関係は結んでいないため、なんだかヤンキーのカツアゲにあっている気分だが、彼女の言っていることも正しい。人間の世界で獣人が生きていくためには、奴隷になるしかないとウーに言われたことがある。だがそれ以外にもダラスのように犯罪者になるという方法も一応存在している。それでも結局その二つしか方法がないのだ。そして生きるために犯罪を犯す人間の気持ちなど、僕のような平和な世界で大きくなった人間にわかるはずがない。だからここはダラスに任せる方が賢明だ。
「分かった。ただし殺さないでね」
「分かってるって」
ダラスは器用に斧で縄を切ると、フィリアを立たせた
「もし、私に勝てたらここから逃がしてやるよ」
フィリアは腰からナイフを取り出し構えた。
それをみるやいなやウーはチマとポタとチセを馬車の奥へ隠した。この対応力のはやさは本当に助かる。
「ウー僕はダラスの言う通り、町で必要なものを調達してくる。その間この子たちを頼む。いつも言ってるけど、何かすぐに逃げてね」
「かしこまりました。しかしあのものに任せてよかったのでしょうか」
「まあ、信じてみるさ。それじゃあ行ってくる」
「お気をつけて」
僕は全速力で街を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます