09 独立記念日
王弟ロマーリが魔物だったという知らせは、すぐにレンゲラン城内と町中に広まった。
「王様、よくぞご無事で」
駆け付けたテヘンやバランたちが、口々に安堵の言葉を述べた。
「アイリンとルイのおかげだ」
オレは、自分を救ってくれた、そして救おうとしてくれた二人の女性に、心から感謝した。
その後の会議で、二つのことが決定した。
一つ目は、魔物から解放したリンバーグ城の城主をどうするか、という件である。
城は本来、防御拠点として存在する。
だから城主は、その城に駐屯する軍の総司令であり、国王たるオレが直々にお出ましにならない限り、その軍の全権を有する。
よって城主には、王族か名声のある戦闘員が選ばれるのが通例のようだった。
今いるメンバーの中ではバラン一択か、とオレは思ったが、軍師キジの意見は違った。
「当分の間、空位でよろしいのでは」と、言うのである。
先にレンゲラン城で軍が創設されたが、まだその人員は少ない。
戦闘員も、バラン、クバル、アイリン、ルイ、テヘン、ダモスの六人だけである。
その戦力を、レンゲラン城とリンバーグ城の二か所に分散させるのは危険だ。
まして、魔軍が襲来するとなれば、北の国タウロッソからだから、狙われるのは北部のレンゲラン城になる。
レンゲラン城に戦力を集中させたままにしておくべき、との意見だった。
確かにその通りである。
オレなどは、空いたら埋める、という発想しかなかったが、そもそも城主を置くことが必要なのか、というところから考え始める。
さすが軍師の発想は柔軟だ、と改めてキジを見直した。
ちなみに、リンバーグの町には
町の管理費はすべて自分たちが賄うことを条件に、税金は取らないことにした。
港町レーベンと同じ自治都市スタイルである。
決定事項の二つ目は、キジの方からの提案だった。
南部の領土にまだ散在している魔物の掃討戦の話である。
「情報によれば、残った土地には手強い魔物はいないと推定されます。ですので、今回の掃討戦は、バラン将軍抜きで展開するのがよろしいかと存じます」
それに対して、バランの代わりにオレが意見した。
「あえてバランを抜く必要はないのではないか? 掃討のペースはどうしても落ちるはずだし、万一のためにも最強の布陣で臨むのが堅実というもの」
「王様がそうおっしゃるなら、私は構いません。ただ、テヘンやダモスにも、レベルを上げる機会を与えた方が良いのではと思っただけですので」
言われてオレははっとした。
確かに第一パーティーだけに戦闘を任せていれば、彼らだけがレベルアップしていく。テヘンやダモスは、駆け出し戦闘員の指導を通常業務としているので、相手にするにしても最下級の魔物ばかりである。それでは、レベルアップはなかなか望めない。
テヘンなどはそういうことを不満に言うタイプではないので、ついうっかりしていたが、クバルとのレベルの差がどんどん開いていく状況を、どう思っていたのだろうか。
「すまぬ。オレの考えが至らなかった。そなたの言う通りだ」
オレはキジの提案を採用し、それから今回の二つの判断を褒め称えた。
だが、キジはにこりともせず、真顔のまま言った。
「いえ、私はただ、この国を強くするために最善と思うことを言っているだけですので」
うん、なんかモヤモヤする。
それはそれで立派だと思うのが半分。もっと素直に喜べよーと思うのが半分。
アイリンがリンバーグ城から凱旋した時、観衆の面前でオレに褒められて飛び跳ねて喜んだ。
さすがにそうしろとは言わないが、せめてあの時のアイリンの可愛らしさの1/10でも、お前に分けてあげたい。
まあ、それはともかくとして、キジの献策通り、バランはレンゲラン城に待機させ、若いメンバーだけでの掃討戦が始まった。
メンバーは五人だったが、パーティーは最大で四人までしか組めないので、一日ごとローテーションでメンバーを決めた。
第一パーティーの三人が気を利かして、テヘンとダモスが多く参戦できるようなローテーションを組んでくれた。
それで少し余計に日数は掛ったが、半月余りでレンゲラン南部の魔物は一掃された。
オレは、レンゲラン国からすべての魔物を駆逐したことを、国の内外に宣言した。
その日が国の新たな独立記念日になり、そこから三日間を祝日として、国を挙げてお祝いすることが決まった。
ただし、その間にも魔軍が襲来する可能性があるので、専門職の六人と軍に所属した一般職は、半分ずつ交替で休むことになった。
祝日初日。
初めにオレの部屋に祝賀の挨拶に来たのは、アムルだった。
「王様、国内平定、誠におめでとうございます」
アムルの目は潤んでいたが、いつものぐじゅぐじゅではなかった。晴れやかな顔をしていた。
「王様がここにレンゲランの旗を掲げられてから、様々なことがありましたが、ようやくこの日を迎えることができました」
オレはうんうんと頷いて、
「すべてそなたのおかげだ、アムルよ」
そう声を掛けられて、アムルはとっさに下を向いた。
だが、すぐに笑顔をこちらに向けた。今日は泣かないと決めているようだった。
「王様の真の目標であられる魔王デスゲイロ討伐の日まで、王様に救い出していただいたこの身を尽くして、お仕えしていくつもりです。その日まで、私はもう泣きません」
オレは笑って言った。
「それは、魔王を倒すことよりも難しいかもしれんな」
その証拠に、アムルの両頬には、もう涙がつたっていた。
そこに、今日が非番の戦闘員、バラン、テヘン、ルイが挨拶に来た。
「やっぱりアムルも参上していたんだね」
そのアムルの顔を見て、テヘンが続けた。
「こらー、アムル。こんなめでだい日に泣いちゃだめじゃないかあ」
「泣いてなんかないよ」
アムルがすぐに目をゴシゴシした。
なんだかこのメンバーだけでいるのが、ひどく懐かしいように思える。
「ここにいる君たちの力があったから、この国は復興した。これからも変わらずに、私とこの国を支えてくれると嬉しい」
オレの言葉に、三人が即座に反応した。
「無論、誠心誠意お仕えいたす」
「私は剣士としてもっと強くなります。私が王様をお支えするのはこれからですよ」
「私も微力ながら、王様のお力になりたいです」
オレはそのまま四人を連れて、屋上の展望台に上がった。
眼下に広がる町並みは、建物が以前よりまた少し増えて、土地全体の半分を超えていた。
「国内が平和になったので、これでまた人が増えていきますよ」
アムルが胸を張った。
オレは、建物の一つ一つを目で追っていった。
「初めはほんとに何も無かったんだからー、ねえ王様。それが今は…」
と言いかけて、声が震えそうになってアムルは黙った。
それきり、誰も言葉を発さなくなった。
階下からは、町の人々の笑い声、話し声、時には歌声が聞こえてくる。
それだけで充分だった。
言葉はなくても、皆の気持ちはきっと同じだろう。
そこに軍師のキジが上がって来た。
さすがに雰囲気を壊すのが
「王様、おくつろぎのところ申し訳ないのですが、本日は各国より祝賀の使者が参ります。王様には玉座の間にて待機していただきたく…。今日は残念ながら、酔っている暇はありませんぞ」
内政面の窓口はアムルだが、外交面の窓口はキジが担っている。
「ははは、王様。私たちはゆっくりしてますので、どうぞ存分にお働きになって来てください」
アムルが笑いながら言った。オレは嬉しい悲鳴を上げた。
「いや、アムルには、使者への返礼の品を用意してもらわねばならん」
「えー、それは私の仕事なんですかあ」
アムルがキジにぶー垂れた。
キジは、他に誰が、というような顔をする。
「分かりましたよ、もうー。王様を笑ったから
それほど嫌そうではないアムルに、テヘンが笑って手を振った。
キジの言う通り、その日はそれから何かと忙しかった。
魔物と交戦中のタウロッソ国以外の五国の使者が、順にレンゲラン城を訪れ、祝いの口上を述べた。
更にその合間には、国内から港町レーベン、南部の町リンバーグの
千客万来。まるで人気アイドル並みのスケジュールである。
無事、公務がすべて終わったのは、夕刻間近であった。
玉座の背にもたれかかってやや放心状態のオレに、キジが声をかけた。
「王様、レンゲラン国を平定したと言っても、元々治めていた国を取り戻したに過ぎませんから、私の祝いの言葉は後日に取っておきます。私は、今ようやく出発点に立ったばかり、と考えております」
キジらしい言葉だ。オレは小さく笑って頷いた。
それにしても、この男の最終目標は一体何なのだろう。
天下統一、とか言い出しそうだ。
まあ、今はそういう大層な話し合いをする元気はないから、またの機会に聞いてみるとしよう。
「これからは、他国との外交が、より重要性を増してきます。これまでも少しずつ情報を集めてきましたが、今後は本格的に他国の情報収集に入りたいと思います。ですので、しばらくは自分の部屋に
また会議を欠席するということか。バランが苦い顔をするな。
だがオレは、キジの申し出を了承した。
「それでは、これにて」
用件が済んで退席しかけたキジが、「あ、そうそう」と言って戻ってきた。
「王様、私は
唐突な話に、オレはしばし固まった。だが、言葉の意味は理解した。
「直言」とは、相手が目上の者であろうと、思ったことを遠慮せずにはっきり言うことを指す。
「ですので、時おり、王様の気に障ることも申し上げるかも知れませんが、そこはなにとぞご容赦を」
正直「今さら?」と思った。それに、「時おり」と「かも知れません」は要らんだろう。
だが、心とは裏腹に、
「いや、そういう者が配下には必要なのだ。これからも頼む」
と口にしていた。
最近、王様が板につき過ぎて困る。ここは、
「直言は良いことだが、相手がいることゆえな。その辺りは考慮して頼む」
ぐらいは言っておいた方が良かったか。
今後も、あの無遠慮な言葉を浴び続けることになると思うと、少し後悔した。
場合によっては、王の太鼓判をもらったと、エスカレートしてくるかも知れない。
しかし、当のキジは、
「では、これにて」
と
オレは部屋に戻ると、ベッドに横になって疲れた体を休めた。
ふと石板の着信音が鳴った。なんだか久しぶりの選択である。
ログインボーナス。一般職のどちらかが手に入ります。
①占い師 ②鑑定士
制限時間:1時間
※以後のログインボーナスは、不定期になります。
前回はアイテム選択で、龍の実をゲットした。あれからもう30日も経ったのか。
次回のボーナスが不定期ということは、実質最後のログインボーナスかも知れない。
まあ独立記念のプレゼントとして、ありがたく受け取っておこう。
占い師と鑑定士。どちらも一般職ということは、戦闘要員ではない。
そしてどちらも、何の役に立つのか今一つ分かりづらい。
そこでオレは、2つの選択肢がタップできることに気が付いた。
タップすると詳細画面に飛んだ。これは親切だ。
占い師:将来獲得できるスキルを見ることができます。
鑑定士:未使用のアイテムの効果を見ることができます。
なるほど。どちらも事前に分かっていると便利だが、より必要性が高いのはアイテムの効果の方ではないだろうか。
将来覚えるスキルはジョブによってある程度想像はつくが、アイテムの場合は、先の「虎の紋章」もそうだし、この前の「龍の実」もそうだが、皆目見当がつかない。これを知る術は是非とも欲しい。
あとは、レア度だな。
オレは、ぐでぐでに酔ったアムルを呼び出して、魔王に滅ぼされる前の町に両者が居たかどうかを聞いてみた。
「えー、占い師は居たけど、鑑定士は居なかったんじゃないれすかあ」
ろれつが回らず聞き取りづらかったが、情報としては間違いないだろう。
では、決まりだ。
オレは、②の鑑定士を選択した。
この選択がまた、オレに幸運をもたらすことになる。
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