第7話
▫︎◇▫︎
私のお母さんはどんな気持ちで人を殺していたのだろうか。
ざくざくと敵の身体を切り裂く感触を味わいながら、私はふと考える。
彼、アンソニーとの秘密の逢瀬はもう10度以上に上っていた。
彼と出会うたびに感じる違和感を、この頃になれば、私はもう消化していた。
なぜ私が彼に心を許してしまったのか、何故私が彼と一緒にいると安心してしまったのか、何故何故という疑問はやがて確信へと変わった。
漆黒の髪に青い瞳、陶器のように滑らかな肌。
この3点で真っ先に気がつくべきだった。
彼はお母さんの血縁だ。
何故ここまで気が付かなかったのかと気がついた時には殴り飛ばしたくなった。魔法の教え方、話す時の間の取り方、歩き方、何をとってもそっくりだ。それに、何より、お母さんと同じ特徴的な武術を使っている。
何度も何度も、あなたは何者なのか、どういう家なのか、聞きたくなった。でも、聞けなかった。聞いてしまえば、この関係が終わってしまうと心の奥底で私は理解していた。だからこそ、私は聞けないし聞いてはいけない。
私の母は異国民だ。
知られてはいけないし、知ってはいけない。
これは何度も何度もお母さんに言い聞かされてきたことで、私の心の奥底にも深く刻みつけられている。ちゃんと分かっている、理解している。
何十人もの兵士を殺して大鎌の柄を地面に刺すと、しゃらっと腰についている青い房飾りが揺れた。
この房飾りは、もちろん私のものではない。私の元々持っていたお母さんが私のために作ってくれた房飾りは赤色だ。
母が作ってくれた私の房飾りは、ガーネットの銀で虎が刻まれた球飾りに、白銀色の糸で花結びをされたふさが揺れていた。
けれど、アンソニーの持っていた房飾りは私とは正反対だった。
彼の房飾りはサファイアの金で鳥が刻まれた球飾りに、漆黒の糸で花結びをされた房飾りだった。
結び方や作り方、そしてこの房飾りの持つ意味の認識が、彼と私の間では完璧に一致していた。
ヴァルキリー王国のみで意味をなす房飾りの意味を知っていて、なおかつ家によっても作り方や叶う願いなどの伝説が異なっているはずの伝説が全部一致しているなど、血縁以外の考え方ができるだろうか。
いや、できない。
私はふっと瞳を閉じて、後ろに付き従っている兵士と共に立って武器を握ったまま僅かな休息をとる。
『ねぇ、フローラ。僕、明日からは忙しくなりそうなんだ』
瞳を閉じれば、最も簡単に彼の声が耳にこだまする。
『奇遇ね。私も明日からは激戦になりそうなの』
最前線の戦況が急激に変化を遂げたのは昨日の出来事だった。
そして、彼との別れを告げたのも昨日だ。
「ワルキューレ閣下!!停戦区にてヴィクトリア公国が進軍を始めました!!」
「っ!」
私は仲間の兵士を置いて行く勢いで、一気にあの場所に走る。
彼と何度も逢瀬を重ねたあの場所へと。
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