第3章
第69話:巨大炎竜
俺はピエトロと分かれて直ぐ父上と母上の所に行きました。
巨大炎竜対策をどうするのか話し合わなければいけません。
ピエトロには今直ぐ民を逃がすような事を言いましたが、嘘です。
民の命よりも父上の威光が優先されます。
「そうか、分かった。
それほどの証拠が有るのに、自分だけが連邦にいて、家臣領民を本領地に残しておくわけにはいかない。
明日から移住を始めるように」
流石父上です。
俺と同じように、伝承が間違っている可能性や、腐れ教会の石板が嘘八百の可能性があっても、万が一の危険を優先してくださいます。
「そうでうね、もう陽が暮れてしまう時間ですから、今直ぐ移住させるのは、流石にやり過ぎですね」
とは言っても、夕食も食べさせずに徹夜で移住させるのは、流石に狂気の沙汰だと分かっています。
明日夜が明けてから村を順番に回って丁寧に説明します。
十分な引っ越しの準備ができるように時間を取ってから移住です。
十分な時間を取ってとは言っても、それほど時間はかかりません。
山の上には恐ろしい亜竜や魔獣が住んでいたのです。
俺が簡単に亜竜や魔獣を斃せるようになるまでは、何時でも逃げられるようにしていたのです。
「この城だけでも、それなりの数の民を引き受けられます。
村ごとに支配下に置いた城や城塞都市に移住してもらったら?」
「母上の申される事は俺も考えていました。
特に公王達を追い出した城は、少数の使用人に任せてしまっています。
古くからの家臣や領民に任せる方が安心できますし、そのようにします」
父上と母上に相談して少し心が軽くなりました。
絶対に勝ち目のない強大な敵を相手に、家臣領民の命を独りで背負うのは、思っていた以上に辛いものがあります。
これまでは、隔絶した魔法の力があるので、何があっても勝てる気でいました。
どのような状態になっても、家臣領民を守れるという自信がありました。
父上が背後に控えてくださっているという、安心感がありました。
ですが今は、一撃で竜山脈に竜爪街道を穿つような強大な竜が相手です。
俺なら互角に戦えるかもしれませんが、家臣領民を守って戦えるとは思えません。
竜の一撃を防いだ衝撃波で、周囲が壊滅してしまうでしょう。
嘘や間違いかもしれない伝承や資料に、不安を感じ過ぎている自覚はあります。
もっと大雑把に受け止めた方がいい程度の、不確かな情報だと思っています。
でも、気になって仕方がなかったのです。
「こうして言葉に出してしまうのは、まだ完全に安心できていないからです。
少々寝不足になってしまいましたが、安心できる方法を思いつきました。
ソナーやレーダーのように、相手の魔力を感じられるようになります。
アクティブ式は此方の存在を相手に知られるので使いません。
相手の魔力だけを感じる魔術、パッシブ魔術だけにします。
大型亜竜以上の魔力を発している者を探知する!
デテクト・ゾゥズ・エミッティング・マジコゥ・パウアァ・グレェィタァ・ザン・ザト・オブ・ア・ラージ・デミドゥラゴン!」
わかる、わかります、魔力の存在が分かります。
とんでもなく強大な魔力が、炎竜砂漠の遥か南の、地中と思われ場所にあります。
ですが、それだけではありません。
同じくらい強大な魔力が、東竜山脈の北東山頂部に感じます。
同じ北東部ですが、恐らく東竜山脈の向こう側でしょう。
地竜森林の地下深くと思われる場所からも魔力を感じます。
西竜山脈の西北山頂付近からも強大な魔力を感じます。
竜爪街道で分かれた東西の竜山脈両方に、炎竜に匹敵する竜がいるのですね!
西竜山脈の向こう側、魔森林だと思われる場所の地中深くからも、強大な魔力が発せられています。
やはり炎竜砂漠はとんでもない場所でした!
無数に感じる大型亜竜の魔力など、炎竜達に比べれば蛍の灯程度です。
五十歩百歩の違いとまでは言いませんが、大型亜竜が蛍の灯としたら、麦球や十ワット蛍光灯程度の魔力は、竜山脈や地竜森林に数多く感じられます。
「非常事態です、炎竜砂漠に強大な竜が潜んでいるのが明らかになりました。
この秋には目を覚ますと思われます。
更に同じくらい強大な存在が、東西の竜山脈と地竜森林、魔森林にいます。
直ぐに連邦に移住してもらいます」
最初に、姉上達が住み始めたばかりの鉱山村や開拓村から移住してもらいました。
まだ思い出も少ないでしょうし、権力者の身勝手な命令には慣れているはずです。
次に炎竜に少しでも近い場所にいる家臣領民を移住させます。
八の村から逆に移住してもらいました。
まだ半年くらいの猶予があるとは思いますが、炎竜が早起きしてしまった場合、家臣領民が皆殺しにされてしまうかもしれないのです。
村が転移の準備を整えるのに必要な時間は、着の身着のままで良ければ三十分。
ある程度の家財道具を纏め、家畜まで連れて行こうと思うと一時間三十分。
今回は何所の村も一時間半で準備してもらいました。
その一時間半の間に、炎竜砂漠の砦を転移させました。
周囲の地盤ごと、連邦に要所に移転させて敵の侵攻に備える砦にしました。
塩も水も食糧も、十年籠城できるだけの備蓄が有ります。
少しだけ迷ったのは、竜爪街道上に造った砦の扱いです。
炎竜と人間なら、最初から比べる必要などなく炎竜の方が恐ろしい。
だからゲヌキウス王国の侵攻時に竜爪街道に後退する選択などありません。
少しだけ迷ったのは、砦ごと転移させるか人間だけ転移させるかです。
結局、転移させずにマーガデール男爵領とブレイン男爵領に自力で移動してもらい、両男爵領の戦力を増やす事にしました。
早起きするな炎竜!
そう思いながら本領地の引っ越し転移を行い続けました。
まだ実り前の農作物には未練を感じますが、家臣領民の安全には代えられません。
炎竜の目覚めが遅ければ、俺が魔術で転移させればいいだけの事です。
連邦領で育ってくれるかは分かりませんが、挑戦してみましょう。
あ、うわ、くそ、早起きしやがった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます