第42話:互助連絡網

「鉱山村の目途はついたが、問題は連絡網だな」


 父上の心配はもっともです。

 東竜山脈で孤立した村が生きていくのはとても難しいです。


 父上や俺が生きているうちは良いですが、死んだ後の事も考えて、道を整備し近隣の村との助け合えるようにしなければいけません。


 一の鉱山村は標高五〇〇〇メートルくらいの高さにあります。

 位置的には四の村と五の村の間になります。


 助けあうための村を造るとしたら、一の鉱山村の真下、標高三五〇〇メートル、標高四〇〇〇メートル、標高四五〇〇メートル付近の最低三カ所は必要になります。


 理想を言えば、四の村と五の村の真上に四つずつ新村を造る事です。

 標高三五〇〇、四〇〇〇、四五〇〇、五〇〇〇メートルの各四ケ所です。

 

 国民数から言えば、大量の難民を受け入れたので、不可能ではありません。

 ですが、水量の問題で不可能です。

 四の村と五の村は畑を大拡張したので、上方に農村を造るのは不可能です。


「農村ではなく、狩人専用の砦にするか?

 見習家臣の訓練を兼ねた駐屯所にする方法もあるぞ」


「将来的にはそれが一番かもしれませんが、今は実力者が足りません。

 砦を造っても、維持できる目途がたちません」


「う~む、俺とディドが巡回して護る事はできるが、どうせ守るのなら、鉱山村に常駐してしまった方が安全確実だな。

 いっそ我が家の本丸を一の鉱山村か、二の鉱山村に移すか?」


「そんな事をしたら、領内伯爵位を与えたロイス家から婿を迎えて、侯王令嬢の地位を維持する計画が台無しになってしまいますよ?」


「もう一度よく考えたら、鉱山村は我が家の直轄領にすべきだと思い直した。 

 ジュリとヴィイには、一の鉱山村との間に造る新村を領地に与える」


「父上がそうお考えに成られたのなら、俺に否やはありません。

 それで、本丸はどちらに移す方が良いと思われますか?」


「二の鉱山村が良いだろう。

 遠さで言えば八の村から東に20km。

 標高も三五〇〇メートル付近だから、無理をすれば八の村から二日で行ける。

 将来的にも、間に二つほど砦を設けるだけでいい」


「分かりました、その心算で姉上達の新居を造り直しましょう」


「そうだな、ジュリとヴィイを村長、領主とする心算で造った新居では、我が家の代官はもちろん、俺達が住むのも問題があるからな」


 父上の申される通りです。

 士族の代官が住むには豪華すぎますし、侯王の本城本丸と考えると粗末過ぎます。

 ですが、野戦陣地、一時的に立ち寄る場所と考えれば十分です。

 

「父上と私の本拠地はイングルウッド侯国とヘレンズ侯国にあります。

 八の村は離宮や別邸と言う扱いです。

 鉱山村に造った住居も、巡視の際に臨時に立ち寄る場所に過ぎません。

 これまで通りで良いのではありませんか?」


「ふむ、そうだな、無駄に大きく華美な家など不要だな。

 非常時に家臣国民を全員収容できればいい。

 ジュリとヴィイの新居だけ造ってやってくれ」


「それもですが、姉上達を代官にしてしまいませんか?

 将来は新たな村と爵位を与えるとしたうえで、代官にするのです。

 常駐する事になっても、父上と俺はあくまで臨時訪問しているだけです」


「領内、いや、国内の事など誰にも知られないとはいえ、体裁を整えておく方が、最悪の場合に生き延びる命綱になるかもしれない。

 ディドの提案した体裁を貫き通そう」


 父上が俺の提案を採用してくださった事で、二つの鉱山村を造り直す必要が無くなり、そのまま運用する事ができました。


 二の鉱山村に父上が、一の鉱山村に俺が常駐する事で、東竜山脈の魔境から亜竜が下って来ても何の心配もありません。


 ですが、これからの事も考えておかないといけません。

 人の遣り繰りは難しいですが、どうしても必要な事です。

 

 俺は山頂近くの魔境に向かいました。

 姿形に多少の差はありますが、地竜森林で捕らえた闘竜に似た肉食亜竜がいます。

 その亜竜を魅了して言う事を聞くようにするのです。


 父上の居られる二の鉱山村にも闘竜を預けたかったのですが、諦めました。

 まず大丈夫だとは思うのですが、何事にも絶対はないのです。

 万が一俺の目が届かない場所で闘竜が暴れてしまったら……


 父上なら、将来のための闘竜などいなくても、二の鉱山村を守り切れます。

 俺の預かる一の鉱山村で、闘竜と騎乗する騎士を鍛えればいいだけです。

 俺は八頭の闘竜を魅了して山頂付近に魔境から連れてきました。


 連れてくるのを八頭にしたのは、闘竜の騎手に成れそうな家臣が八人しか残っていなかったからです。


 急速に亜竜軍団を整備拡大したことで、めぼしい士族が全て竜騎士になりました。

 現在の我が家には馬を駆る騎士が一人もいない状況です。

 輓竜御者と兼務の馬騎士はいますが、専従はいなくなってしまいました。


 これから新たに現れるとしたら、まだ年若い家臣の子弟子女です。

 古参領民の子弟子女にも期待しています。

 基礎訓練をしている子弟子女なら、身体ができ次第竜騎士に成れるでしょう。


 淡い期待をしているのが、助けた貧民達です。

 基礎訓練はできていませんが、幼い子供達は、長い時間をかけて訓練すれば、馬を操る普通の騎士くらいになら育つかもしれません。


 成人している者達の中にも、才能が有る者がいるかもしれません。

 中には没落した侯王家の者や士族がいるかもしれません。

 輓馬の御者くらいになら、成人してからでもなれるかもしれません。


 闘竜の餌に関しては、東竜山脈の魔境は利用しません。

 草食の亜竜や魔獣が減り、肉食亜竜が山を下りるような事が有ってはいけないからです。


 ゲート魔術を使って地竜森林と行き来し、狩りをさせました。

 新人闘竜騎士が最低限の騎乗技術を身に付けた頃、ようやく俺も一息付けました。


 新人が闘竜に喰われたりケガさせられたりしないように、常に細心の注意を払っていたからです。


「そろそろ自分達だけで操る時間を増やしてもらう事にします」


 俺がそう言うと、まだ年若い、竜騎士になりたての八人が顔を強張らせました。

 明らかに怯え、恐怖を感じているのが分かります。

 それでも気丈に答えてくれました。


「「「「「はい!」」」」」


「完全に放任するわけではありません。

 ほとんどの時間を君達の安全に使います。

 常に監視するように見なくなるだけです。

 後回しにしていた重要な役目を同時にやるだけです。

 近くで竜の気配に気をつけていますから、安心して下さい」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 若者らしい初々しい返事をしてくれます。

 まだ幼いともいえる、十代前半の彼らを無駄死にさせたりはしません。

 

 ただ、魔力を使った植物の品種改良が必要なのです。

 春の種まき、苗床をつくるまでに、どうしても欲しい新品種があるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る