第30話:緑化2

「熱心だな、頑張ってくれるのはうれしいが、無理はするなよ。

 王都との往復だけでも忙しかったのに、多くの王侯貴族を威圧しただろう?」


「あの程度は大したことありません」


「そうは言っても、毎日身体強化魔法を使って領地に戻っていただろう?

 私だけでなく、パトリ達も心配していたのだぞ」


「父上と母上、姉上達にまで心配をおかけしたのは申し訳なかったです。

 ですが、あの程度では疲れもしませんでした。

 今も全く疲れていませんので、ご安心ください」


「ディドは本当に規格外だな!」


「それほどの事はありません。

 父上と同じ身体強化魔法が使えるだけです」


「よく言う、俺にはディドほどの魔力はない」


「それは父上が幼い頃から指導してくださったからです。

 父上も、指導してくださる方がおられたら、魔力も増えておられました」


「ふっ、そう言う事にしておこう。

 それで、これが燃料に使えると言う木か?」


「はい、神の啓示ではナンヨウアブラギリ、ジャトロファと呼ぶそうです」


「なんで二つも名前があるのだ?」


「それは俺にも分かりません」


「まあ、いい、そんなに燃料として有望なのか?」


「はい、実の中にある仁の六割は油です」


「ほう、それはいいな、絞れば色々使い道があるな」


「いえ、残念ながら実に毒がありますので、燃料以外には使えません。

 油を蠟燭にする事はできますが、子供が間違って実を食べる心配があります。

 子供が近づけない場所で植えようと思います」


「そんな問題があるのなら、先のナツメヤシを増やせばいいのではないか?」


「ナツメヤシは食糧として有望な実を付けてくれます。

 百年は実をつけてくれますから、薪に伐採するのは惜しいです」


「そうだな、百年も甘くて美味しい実をつけてくれるのなら、そう簡単に伐採して薪には使えないな」


「はい、ですがジャトロファなら燃料以外に使い道がありません。

 ナツメヤシよりも少ない水、もっと痩せた土地でも育ちます。

 ナツメヤシが育てられない場所に植えようと思っています」


「ほう、それは凄いな」


「ナツメヤシよりも成長が早いので、燃料の確保が予定よりも早まります。

 病気にも強いので、植林が失敗する確率も低くなります。

 実験を重ねる心算ですが、ナツメヤシの台木にできれば、普通ならナツメヤシが育てられない場所に、ナツメヤシの森を作れるかもしれません」


「だったら計画的に植林しなければいけないな」


「はい、それも御相談したかったのです」


「他にもあるのか?」


「はい、父上に買って来ていただいた物の中には、雑草になってしまう事があるので、植えるかどうか迷っている物があるのです」


「迷うと言う事は、利点もあるのだな」


「はい、塩分を含んだ乾燥した土地に生えるので、家には合っています。

 ソルガムと同じように、土地の塩分を吸ってくれますので、牧草代わりにすれば、塩害を防ぐことができます。

 俺達が手間をかけて塩を作らなくても、葉や茎に多くの塩を含んでくれます。

 それが料理に使えるなら、塩代わりに使えます。

 ただ、今回父上が手に入れてくださった物が食べられるかどうか分かりません」


「ふむ、確かに家に合うように聞こえるが、塩の代用以外には使えないのだな?

 問題点はそれだけなのか?」


「いえ、他にも繁殖力が強すぎて、雑草駆除が大変になります。

 それと、風に吹かれて徐々に集まり転がる、タンブルウィードと呼ばれる独特の物になるのですが、炎熱砂漠に放置できる非常用干し草になるかもしれません」


「う~ん、ソルガムが見つかっていなければ、雑草の駆除が大変になっても、牧草や蕪の代わりに育ててもよかったのだが……

 それに、塩も大事だが、一番大事なのは飲み水だ。

 飲み水を作るついでに塩ができている状況だからな」


「はい、そうなのです。

 家で一番大切なのは飲み水ですから、塩の代用をわざわざ作る必要はありません。

 それに耕作地の塩分を取り除いてくれるのは、主食にもなるソルガムが上です。

 ただ、耕作地以外の塩分を取り除いてくれる物は少ないのです」


「確かに迷いどころだな。

 耕作地以外の塩分を前もって吸ってくれるのは助かるが……

 塩分が強くなった土地で育てられに物はそんなに少ないのか?」


「はい、もの凄く少ないのです。

 塩分が強い土地は海岸沿いになります」


「なるほど、塩害はあっても水自体は豊富な土地に多いのか?」


「はい、家のように、徐々に塩分が強くなる耕作地なのに、水が不足する土地で育てられる塩の強い植物は、本当に珍しいのです」


「ならば、手に入った種の半分だけを、領民が手を加えられないような荒地に撒いてみて、何の手間もなしに牧草が育てられるか試してみるか?」


「宜しいのですか?

 さきほども申したように、勝手に千切れて枯草の塊を作ってしまいます。

 風に吹かれて転がる間に、種を撒き散らせてしまいます。

 知らないうちに畑に入り込むかもしれません」


「村の畑は、全てディドが造ってくれた城壁の中にある。

 少々強い風が吹いても、城壁の中にまで入り込む事は少ないだろう?」


「はい確率的には低いと思います」


「それに、万が一入り込んだとしても、芽を出して直ぐに家畜に喰わせればいい。

 ディドのお陰で家畜の数がとんでもなく増えた。

 今年は大量の家畜を売り出せるが、値崩れするようなら屠殺して食料にしようかと、冗談を言うくらいだからな」


「申し訳ありません。

 卑怯下劣な王侯貴族共を脅かす為とは言え、少々やり過ぎました」


「おい、おい、おい、別に怒っている訳じゃない。

 ディドのお陰でこの辺りは伯爵領に格上げされ、俺も伯爵に陞爵された。

 カルプルニウス連邦の侯国と同じように、伯国を名乗れるようになった。

 感謝こそすれ、怒るはずがないだろう?」


「ありがとうございます」


 確かに、前回の王都訪問は大成功でした。

 恐怖に慌てふためいた王は、父上を伯爵に陞爵したのです。


 それどころか、カルプルニウス連邦にある三百侯国と同じように、独立した諸侯としての待遇を認めたのです。


 流石に伯爵位で王家に準じる独立権を持った例は少ないですが、全く前例が無い訳ではありません。


 キリバス教の腐れ教皇が、新教徒の討伐に活躍した下位貴族に伯爵位を与え、独立した国家として扱った事があるのだそうです。


 ただ、あくまでもキリバス教の旧教徒だけが認めた準国家です。

 新教を信じる国は承認していません。


 それに、単なる伯爵でもなかったそうです。

 キリバス教の教皇が、宗教的な権威を大盤振る舞いしていたそうです。


 特別名誉大司教に任命して、大司教領ともしていたそうでう。

 伯爵家の騎士団を、準修道騎士団として扱う事で、騎士団国家としての体裁まで整えたそうです。


 これで領主は伯王として税に加えて大司教としての税も徴収できます。

 準修道騎士団なので、新教徒を襲っても教会の権威で正義を行った事になります。

 教皇の手駒として使うための大盤振る舞いです。


 そのせいで、伯爵が手に入れた独立準王権は、伯爵王としたものなのか、大司教王としたものなのか、騎士王としたものなのかはっきりしないそうです。


 ですが、前例は前例なので、遠慮なく利用させていただきます。

 父上には伯爵王、伯王を名乗っていただきました。

 我が領地は伯国領です。


 この挑発に旧教徒や旧教国家が怒って乗ってくれれば最高です。

 新教を信じるゲヌキウス王国に侵攻してくれるでしょう。

 旧教に内通している諸侯を炙り出す事ができます。


「では父上、時間ができたら又カルプルニウス連邦に行っていただけませんか?」


「ん、もう家畜は十分だろう?

 まだ他に欲しい植物が有るのか?」


「いえ、家畜や植物ではなく、欲しい友好国があるのです。

 伯王に成られた父上に相応しい同盟国が欲しいのです」


「……俺に王の振舞いをさせようと言うのか?」


「父上なら立派な王に成られます。

 一時は騎士王のような立場だったとお聞きしています」


「それは大嘘だ、噂に尾鰭がついただけだ。

 傭兵が成り上がって騎士に叙勲され、広大な領地を得ただけだ」


「中規模な国に匹敵するような領地だったとお聞きしていますが?」


「ちがう、違う、ここと同じだ。

 不毛な領地が広がっているだけで、耕作地も狭ければ領民も少ない。

 実質的には子爵領と変わらないような土地だった」


「取り戻したいと思われないのですか?」


「……戦友の亡骸が残る土地だ、想いはあるが、今側にいてくれる大切な家臣領民の血を流してまで取り返そうとは思わない!」


「そうですか、それなら無理にとは申しませんが、この前訪問された侯国には、建国の挨拶に行かれた方が良いのではありませんか?」


「……そんなに建国の挨拶が重要なら、ディドに任せるから好きにしてくれ」

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