第23話:猛爪竜と母上
七の村も、村人全員が地下壕に避難していました。
彼らにも、まだ地下壕からでないように厳しく伝えました。
ようやく八の村にたどり着く事ができた俺が見たのは……
「ギャアアアアオン!」
地竜森林最大の肉食亜竜、猛爪竜でした。
伝説の地竜がいないのなら、最強の亜竜でしょう。
いえ、地竜は属性竜か純血種竜でしょうから、やはり地竜森林最強最大の亜竜には違いありません。
猛爪竜が、六の村と七の村では我がもの顔で振舞っていた、中型の肉食竜、斑竜を喰い殺している姿でした。
猛爪竜の特徴は、つけられた名前の通りです。
多くの亜竜の武器が牙と尻尾だけなのに、猛爪竜は爪まで武器にするのです。
鋭く長い前足の爪は、同じ竜種の硬い皮を易々と切り裂くのです!
「この糞ボケが!」
人前では男爵家の公子らしい言葉遣いをするようにしています。
ですが、大切な家族を襲う竜相手には、転生前の汚い言葉が出てしまいます。
亜音速で駆けつけた勢いを殺すことなく、逆にその勢いを利用して、身体強化した腕を振るって猛爪竜の首を斬り飛ばします。
殺すのは猛爪竜だけではありません。
八の村には中型肉食亜竜の斑竜、小型肉食亜竜の桃頭竜までいるのです。
三種の竜が八の村を縄張りのしようと争っていたようです。
「人間様の縄張りに出てくるんじゃねぇ!」
亜音速で駆けつけた勢いはなくなりましたが、全魔力を開放した俺の身体強化魔法は、瞬発力も凄まじいものがあるのです。
その素早さは、動きの速い桃頭竜でも反応できません。
容易く首を狩ってアイテムボックスに収納できます。
もちろん猛爪竜も収納してあります。
「「ギャアオン!」」
夫婦なのか親子なのかは分かりませんが、最後に残った二頭の中型肉食亜竜、斑竜の首も刎ねてアイテムボックスに収納します。
もったいないので、別の収納庫を創り出して、その場に散乱している、喰い散らかされた桃頭竜と、咬み傷の激しい斑竜も収納します。
食料にできない竜をアイテムボックスに収納するのは不潔な気がしたのです。
……よく考えると、アイテムボックスに食用品を収納する方がおかしいです。
アイテムボックスには、言葉通りアイテムを保管すべきでした。
いえ、今はそのような事を考えている場合ではありません!
「母上、フェルディナンドです!
ご無事ですか?!
母上、お答えください、母上!」
大声で叫びながら、モールス信号で厚く硬い地下壕の扉を叩きます。
普通の人間では、とてもひっぱり開ける事の出来ないような重い扉です。
力の弱い女子供だと、中の人間に協力してもらわないと開けられないでしょう。
中にいる人間も、男が背中で押し上げないと、一人では開けられないでしょう。
「よく助けに来てくれました。
貴男なら必ず助けに戻ってくれると信じていましたよ」
父上、母上はご無事でした!
「ディド、よく戻ってきてくれたわね!」
「思っていたよりも早いのじゃない?」
「そうかなぁ、ディドならもっと早く戻れた気がするわ」
「ディド、お腹空いた、美味しいものが食べたいわ!」
姉上達の自由勝手な言葉も、今は心地よい。
前世で姉妹のいなかった俺は、外ズラをかなぐり捨てた女の言動に衝撃を受けて、女嫌いになりそうなくらいなのですが、今は愛おしさが勝っています。
「俺がいますから、外に出て自由に料理してもらって大丈夫です。
ですがその前に、領民は全員無事ですか?
被害者はいませんか?」
「大丈夫ですよ。
狼煙を見て直ぐにここに逃げ込みましたから、被害者はいません。
ディドがここを大幅に拡張してくれましたから、雪狼も家畜も一頭残らず助ける事ができましたよ」
依怙贔屓や差別と言われるかもしれませんが、母上と姉上達の居られる八の村だけ、俺が地下壕を大拡張しました。
村人だけでなく、貴重な家畜も匿えるようにしてありました。
特に妊娠中の駱駝の雌と子供は、優先的に匿えるようにしてありました。
「いえ、いえ、私の力など些細なモノです。
どれほど立派な道具があっても、使いこなせなければ意味がありません。
広くした地下壕も、使いこなせなければ只の穴です」
「そうよ母上、母上が偉大なのよ」
「ジュリ、貴女が偉そうに言う事ではありません。
フェルディナンドが正式な後継者に決まったのです。
降嫁してここに残りたいと言うのなら、臣下の礼をとりなさい」
「はい、ごめんなさい。
申し訳ありませんでした、フェルディナンド様」
「やめてください、ジュリエット姉上。
そういうのは本当に降嫁してからにしてください」
「ふっふふふふふ、分かっているわよ。
ちょっとからかっただけよ」
「ちょっとからかったではありません!
もっと真剣になりなさい!
普段自慢していた弓や剣では、竜の相手にならない事を自覚しなさい!
この領地を維持できるのは、父上とフェルディナンドの力だと自覚して、自分がどのような言動をすべきかしっかりと考えなさい!」
母上が本気で怒られました。
竜が村のある位置まで下りてきた事に、危機感を持たれたのでしょう。
今までとは違う厳しさでジュリエット姉上に接されます。
「はい、申し訳ありません、母上」
よく言えば天真爛漫、悪く言えば自由無軌道なジュリエット姉上です。
竜が現れるような現状では、それが家臣領民を殺してしまう事もありえます。
母上が教育方針を替えられるのも仕方がないでしょう。
「母上、この辺りに竜がいない事を確認したうえで、村を再建するための資材を運んできますので、その間に料理をしていてください」
「分かりました。
こうなった以上、フェルディナンドの魔法を隠してはおけません。
東竜山脈に村を維持できるかどうかで、我が家の方針が大きく変わります。
父上に代わって私が許可します。
一切の自重をかなぐり捨てて、東竜山脈に村を維持できるようにしなさい」
「はい、母上」
母上の許可を頂いたので、自分の決断だけの自重解除ではなくなりました。
俺の判断だけでも、父上が否定される事はないと思いますが、母上が判断されたことなら、父上が再自重を命じられる事はないでしょう。
まずはアイテムボックスに代表される収納保存能力を表に出します。
食料品を時間経過を止めて保存収納するパントリー。
大切な武器や防具といった、大切なアイテムを時間を止めて保存収納する、アイテムボックス。
他にも役割と重要度によって保存方法を変えました。
保存方法によって自然消費される魔力が違うので、魔力を多く使う保存方法に収納する量は少ない方が良いのです。
時間を止めることなく収納するだけなら、一度創った亜空間に放り込んでおけばいいので、自然消費魔力が必要なくなります。
「各種収納方法」
パントリー:食用品を時間を経過させる事なく保管する。
ウエアハウス:時間経過しても構わない大型の家具や道具を収納。
ツールボックス:細々とした道具を、直ぐに取り出せるように種類別に収納。
ラージボックス:それなりに大きな道具を含む、一つに仕事に必要な物を収納。
アイテムボックス:大切な武器や防具などのアイテムを時間経過なしに保管する。
俺はこれまでアイテムボックスに収納していた物を、重要度順に新しく創った収納先に入れ直しました。
そして新たな村を築くための資材を手に入れに行きました。
最大最強の肉食亜竜である猛爪竜でも破壊できない強度の石材、竜爪街道の大理石を切り出しに行ったのです。
十メートルの厚みを持った大理石を積み上げて造った村なら、天井も大理石で覆ったら村なら、どのような竜であろうと入る事はできません。
ただ、天上の部分には採光のための空間を開けなければいけません。
それは、厚みを保った大理石の所々に穴を開ければ好い事です。
問題は、自給自足するための畑と放牧地をどうするかですが……
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