第七話 『初任務』
京条寺の住職である八雲さんの提案を受け、高梨さんの助手となったある日。
僕は学校に行くと高梨さんから昼休みに話がしたいと連絡を受け、
指定された時間に屋上へとやってきていた。
屋上には本来鍵が掛かっていて生徒が勝手に立ち入れないようになって
いるのだが、どうやら高梨さんが事前に開けといてくれたらしく僕は塔屋から
扉を開け外に出る。するとそこにはフェンスの土台となったコンクリートに
腰をかける高梨さんがいた。
「やあ天寺君、待ってたわよ」
高梨さんは僕を見つけるとニコッと微笑んでみせる。そして自身の隣に手を置き
ポンポンとコンクリートでできた段差を叩く。
どうやらここに座ってという意味らしい。僕は少し距離を空け彼女の隣に座る。
「まさか屋上に入る日が来るなんて思わなかったよ」
「ここは人目がないからお互いに好都合でしょ」
「そうだね」
「それよりも意外と早かったわね。ちゃんとご飯は食べたの?」
「お昼はいつも購買のパンだから食べるのに時間はかからないよ。
それよりも高梨さんはいいの? いつも友達と食べてるでしょ?」
「気にしなくていいわ。それよりも――――」
と彼女は制服のポケットから何かを取り出し僕に差し出す。
それは学生証や免許証に似たカードのようだった。
「これは?」
「祓屋としての身分証。一応これないと仕事できないから」
「こんなのあるんだね」
「まぁね。とはいっても法的な効力はないから本当に只の身分証程度のものよ」
「へぇ。ってことは払屋の人たちはみんな持ってるの?」
「基本はね。持ってることで同業者の証ってことになってるの」
「ふーん」
「とはいってもこの業界自体狭いから、名前が売れれば必要のないものだったりも
するわね」
「そうなんだ」
受け取った身分証を財布の中へとしまう。
「という訳で、天寺君も私の仕事に同行できるようになったわけだけれど、
大丈夫そう?」
「気持ち的な話であれば一応。覚悟はしてる」
「ならいいわ」
「――――具体的に祓屋ってどんなことをするの?」
「そうねぇ、大体は危険な場所の見回りや穢れの除去。
あとは出現した怪異の対処かな」
「いつもあんな危ないことしてるの?」
「いいえ。前にも言ったけど通常、怪異に遭遇することは稀なの。
だから私たちの仕事の八割は地道な見回りがほとんどなのよ」
偶に依頼として怪異退治もやるけどね、と高梨さん。
「それじゃあ、僕らもしばらくは見回り?」
「そうなるわね」
その言葉を聞き、僕は内心ホッとする。
あの夜の学校での出来事は未だに軽いトラウマなので、怪異と遭遇しない
というだけで少し安心できる。
「ちなみに天寺君は商店街の近くにある廃墟を知ってる?」
「ああ、一応知ってるよ。なんでもちょっとした肝試しスポットになってるとか」
「じゃあ、最近そこにうちの学校のサッカー部が肝試しに行ったことは」
「知ってる。確かサッカー部が活動休止する少し前だよね」
「そうね」
「まさかそれって…………」
怪異の仕業なんじゃ?
そう口に出す前に高梨さんが首を振る。
「まだ分からないわ。だから今日はその調査をしに行くわ」
「分かったよ」
そうして僕は放課後、初めて高梨さんの仕事に同行することになったのだった。
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